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岡半 本店(銀座)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年3月20日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月23日

東京都中央区銀座7-6-16 銀座金田中ビル7・8F   ☎︎03-3571-1417 

営業時間11:30~14:00、17:30~22:00   定休日:日曜、祝日

予算:寿喜焼/しゃぶしゃぶコース(7F)¥17280〜、鉄板焼コース(8F)¥9,720〜

http://www.kanetanaka.co.jp/restrant/okahan*2015年「週刊新潮」3号掲載



煎るように焼く

関西風すき焼きの老舗「岡半」


 東京では珍しい「関西風すき焼き」の老舗といえば、銀座の「岡半」。三重県伊勢で生まれ育った創業者の岡副鉄雄(おかぞえ てつお)氏が、故郷のごちそうの味を東京にも広めようと、昭和28年にすき焼き専門店として開業した店である。

 その歴史を、3代目の岡副真吾社長が振り返る。

「もともと祖父は、銀座で関西割烹を開いていたのですが、終戦の時、料亭『金田中』の後継者難から、昭和20年に店を引き継ぐことになりました。その後、昭和28年に関西割烹の裏手にあった旅館を買い取り、新たにこの『岡半』を立ち上げたのです」

 その際、料亭「金田中」の店主でもあった初代・鉄雄氏は、客として親交のあった文豪・吉川英治から、こんな言葉を授かったという。

「あなたは包丁一本で身を立てて成功させ、気付けば料亭の主となり、新業態の店を始めようとしている。右肩上がりの成功をしているが、満足しているか? 僕にはもっと上を目指そうとしていると思えてならない。岡副の業、まだ半ばなり」

 こうして店は「岡半」と名付けられ、割下を使わずに焼く「関西風すき焼き」の旗手となった。

「『すき焼きは煎り付けるように焼かなあかんで』というのが、祖父の口癖。そのこだわりを教え込まれた熟練の仲居さんたちが、鍋の泡の具合や色を見ながら、味を作ります」(岡副社長)

 取材当日に注文したのは、1万7280円の「寿喜焼コース」。お通し、5種の前菜、すき焼き、食事(ご飯または麺)という内容だ。

 すき焼きは、大皿に並べられた1名分150㌘の美しい松坂牛を、1枚目はリブロース、2枚目はサーロイン、3・4枚目は肩ロースという順で、仲居さんが丁寧に焼いてくれる。

先ず、熱した鉄鍋に牛脂を引き、松坂牛を広げてグラニュー糖をふりかける。続いて生醤油と昆布出汁をたらり。水分の蒸発音と共に甘い香りが広がったら、調味料を包むようにして裏返し、サッと焼く。そして、玉子を溶いた小鉢へと、取り分ける。

その味わいは甘辛く、和牛特有の風味と軽やかな脂の旨みが口の中に広がる。

 仲居さんいわく、

「お肉に調味料の味がよく染みるのは、職人が1枚1枚、薄く手切りにしているからなんです。機械の回転刃で切ると、摩擦熱で溶けた表面の脂がお肉の中に入ってしまい、調味料がよく染み込みません」 

 これだけの卓越した技を持っていながら、なお「業、半ばなり」というのか。

「実は祖父は吉川先生から、『大成したと思った時には店名を変えなさい』と言われ、『岡全』という名前も預かっています。けれど、私の仕事は先代から受け継いだこの店に、新しい時代の風を吹き込み続けていくこと。岡副の業は、永遠に半ばなのです」

 岡副社長の言葉が、すき焼の味わいを一層、有り難く感じさせるのだった。


©MEGUMI KOMATSU

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