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笹乃雪(鶯谷)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年8月12日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月22日

東京都台東区根岸2-15-10

☎03-3873-1145

営業時間:11:30〜20:00LO  

定休日:月曜(祝日の場合は翌火曜)

コース予算:昼食¥2,400〜、夕食¥3,000~(共に税込)

http://www.sasanoyuki.com 

*2018年6月21日発売「週刊新潮」24号掲載


創業300年超の老舗の風格と            

井戸水で作る豆富の清い滋味


「水無月や根岸涼しき篠の雪」

正岡子規直筆の句碑が店先で歴史を香らせる「笹乃雪」は、1691年から続く豆富料理店。黒塀に笹の葉の緑が映える玄関から中に入り、下足番に迎えられれば、タイムスリップしたような気分に包まれる。

「京都で絹ごし豆腐の製法を確立した初代が、皇族のお供で江戸に移り住み、当店を創業しました。江戸で初めて作った絹ごし豆富を宮様に献上しましたところ、大変喜ばれ、その時に賜ったお言葉から屋号をいただいたんですよ」

 と来歴を語る奥村喜一郎氏(52)は、11代目店主兼総料理長。屋号の由来は子規の明治期の句ではなく、

「笹の上に積もりし雪の如き美しさよ」

と、宮様が江戸時代にお褒めになった言葉だとか。

 3000円(税込)から5種類用意されたコースに使われる自家製豆腐は、まさに雪のような白さ。そんな豆腐のソースと様々な野菜を盛り合わせた「生盛膾」は、ソースと野菜を和えて味わう定番料理。ソースはクリーミーで、盃を傾けながらのんびり楽しんでも豆腐の水分が出る気配がまるでない。

「にがりで固めた豆腐は大豆のタンパク質とにがりが結合しているので、時間が経っても水分は出ないんですよ。にがりではなく薬品を使って固めた最近の豆富はすぐに水分が出てしまいますけどね」(奥村氏)

 シンプルな冷奴は口に入れると淡雪のようにふわりと溶け、清らかな甘みと滋味が広がる。奥村氏曰く、

「豆腐料理の要は水ですので、当店は数百年かけて武蔵野から到達した地下水を汲み上げています。また、にがりを使うことで大豆の味、香り、旨味が引き出されるのです」

 名物の「あんかけ豆富」は一人2碗供されるが、その理由は創業当初、宮様があまりの美味しさに

「今後は二つ出すように」

と宣ったため。生醤油の香りが生きた餡に辛子を溶き、豆富を十字に切り分けて餡とすすれば、瞬く間にお腹に収まってしまう。



 続いて登場する「胡麻豆富」は、もっちりとなめらかで、胡麻の風味が実に繊細。コースの前半はこうしたオーソドックスな料理が続くが、後半は一転して独創的だ。仄かに甘いじ

ゃがいものスープを張った「茶碗蒸し」や「豆腐といかのミンチの揚げ物」などの温かな豆富料理は、趣向を凝らしたものばかり。中でも印象的な「雲水」は、つくねや野菜、湯葉巻き、素麺など7種の食材と豆乳を小丼で蒸しあげたもので、食べ応え満点だ。雲水といえば一ヵ所にとどまらずに修行を続ける僧を指すが、

「ふわふわした見た目の様子と、豆乳の色が雲の色と重なることから『雲水』と名付けました」

 と奥村氏。

 文人墨客に愛された老舗は、料理の名前も文学的で味わい深い。

©MEGUMI KOMATSU

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