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鮨わたなべ(四谷三丁目)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年5月9日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月25日

東京都新宿区荒木町7 参番館1F ☎03-5315-4238 

営業時間17:00~23:00 

定休日:日曜 予算:¥15,000〜

*2016年「週刊新潮」3号掲載



 花街の面影を残す東京・荒木町は、細い路地に小体な店がひしめく飲食の街。その一角に一昨年6月に開業した「鮨わたなべ」は、旬のつまみと江戸前の握り8カンからなる1万5000円のおまかせコースが好評の人気店だ。

 暖簾をくぐると、木曽桧のカウンターに立つ店主の渡邉匡康氏(42)と目が合った。坊主頭が鮨職人らしい風貌だが、若い頃は料亭で修業していたという。

「料亭の料理人は完全に裏方仕事ですが、鮨屋はお客さまと接しながら、その反応を見て自分の仕事を改善できる。それで鮨職人に転向したんです。日々、お客さまに育てていただいています」

 先付の「アンキモみそをのせた蕪のふろふき」は、とろりと柔らかく煮えた蕪に出汁が染み込み、日々どんな客に鍛えられているのかと思う、迫力の味わい。

「おつまみは旬のネタを2種ずつお出しします」

 そう言って供された大間の平目と銚子の黒ムツの刺身は、どちらも白身特有のプリッとした食感と、独特の香りがある。

「天然の魚には、魚種特有の味があります。それを楽しんでいただくために、毎日築地に通って複数の仲買と話をし、その日の“ベストメンバー”を仕入れているんですよ」

次の2種も刺身で、神奈川・下浦の鯖と佐渡の寒ブリが登場した。鯖は舌で脂が溶けると同時に旨みが広がる一方、寒ブリは血合いの酸味と旨みが広がった後、香りが鼻孔に抜けてゆく。

 こうして堪能した計10品のつまみの中で、最も印象的だったのは、エゾアワビと瀬戸内海・下津井産の煮ダコ。黄味がかったアワビは旨みが濃厚で、煮ダコは香りのよさが出色だ。

「エゾアワビは黄色ければ黄色いほど美味しい。一方の下津井産のタコは、焙じ茶や大根と共に煮る店もありますが、ウチは極上の香りを生かすために、塩だけで煮ています」

 さて、ここからが握りである。2種のガリに続いて登場したのは、肝をかませて握った下浦のカハワギ、大間のマグロ、出水のスミイカ、対馬の穴子と、名産地の天然物ばかり。

「旬ではないエビだけは、九州・伊万里湾の半養殖モノを使っています。江戸前鮨には欠かせないネタなので、通年使える産地を探しました。厳選した餌で飼育され、丁寧に管理されているので、天然物と遜色ありませんよ」

 ご主人の言う通り、エビの厚い身はほのかに甘く、風味絶佳。上にのせた黄味酢のおぼろや、酢と塩が穏やかなシャリの風味と相まって、いかにも江戸前の味わいである。

〆は、出汁巻と芝海老入りのカステラ風という2種の玉子焼だ。

「色んなものを少しずつ食べたいという女房の意見を取り入れて、2種類をお出ししています」 

 鮨屋になった甲斐があるとばかりに相好を崩すご主人の姿に、こちらの顔もほころぶのだった。



©MEGUMI KOMATSU

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