の弥七(四谷三丁目)
- 小松めぐみ
- 2018年6月17日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月25日
東京都新宿区荒木町2-9 MIT四ッ谷三丁目ビル1F ☎03-3226-7055
営業時間11:30~13:30LO、17:30~21:30LO 定休日:日曜
*2016年「週刊新潮」45号掲載

割烹のような和中折衷料理店で
冬の名物“クエ鍋”を堪能
店名の「の弥七」は、ご想像通り、時代劇「水戸黄門」に登場する忍者「風車の弥七」にちなんだもの。
「実家が高知県で『風車』という中華料理店を営んでおりまして」
そう語るのは店長の山本眞也氏(37)。四谷荒木町の店には白い暖簾が掛かり、まるで小料理屋のようだが、料理のベースは中国料理である。山本氏は上海や東京の有名店で伝統的な広東料理を15年以上修業したが、自身が作りたいのは日本人好みの中華だという。
「中華は油がしつこすぎるところがありますが、逆に和食はあっさりし過ぎるところがある。だから、その間を取りたいんです。そして日本の食材と器を使い、その季節感を中華に落とし込みたい。この冬はクエ鍋がおすすめです」
そのクエ鍋が楽しめる1万2000円のコースの先付は、熱々の「焼き胡麻豆腐」。オイスターソース入りのポン酢をかけた揚げだし豆腐のようなそれは、衣の香ばしさが食欲をそそる、和中折衷の味わい。
続いて、古風な手提げ三段重で登場した前菜は、上二段の「美桜鶏のよだれ鶏」と「さんまの四川山椒焼き」はスパイシーな味付けで、3段目はさまざまな味わいの前菜の詰め合わせ。叉焼や腸詰といった純粋な中華もあれば、あん肝などの日本料理、中華風出汁巻玉子などの折衷料理もあり、お酒が進むものばかりだ。素揚げしたドジョウのワタの苦味と黒酢の甘味がよく合う「ドジョウの黒酢和え」など、どれも日本酒にも紹興酒にも合う。いかにも仕込みに手がかかりそうだが、
「お客様にゆっくりとお酒を楽しんでいただきたい一心です。前菜は甘いもの、醤油味のもの、痺れ味のあるものを揃えています」
そして“食べる辣油”で戻り鰹の刺身を楽しんだら、いよいよ「クエ鍋」の番。
「中国料理ではハタ科の白身魚を使いますが、クエはハタ科の最高級魚。クエは関東ではあまり馴染みがありませんが、関西で好まれる冬の魚です。当店では今年から長崎・五島列島の新鮮なクエを仕入れられるようになったので、しゃぶしゃぶでお出ししています」
分厚いクエの切身を土鍋でしゃぶしゃぶにすれば、クエとスープの繊細な旨みが相まって至福の味わい。クエはもちろんだが、あっさりしたスープも味わい深い。
「中華のスープは本来、鶏ガラをベースとしますが、香りが強いので、私は昆布と煮干しのスープを使っています。ただ、それだけだとあっさりし過ぎるので、挽肉や金華ハムを使って旨味を加えているのです」
コースはさらに蒸し物、揚げ物、肉料理と続き、〆は自家製のカラスミ炒飯。これもお酒のアテにうってつけで、〆なのに締めにくいのはご愛嬌。季節感溢れる和食と中華のハイブリッド料理は、忍者の弥七の手裏剣のごとき正確さで左党の心を射止めるのだった。
(2018年8月19日追記)
店舗は移転しており、現住所は上記「東京都新宿区荒木町2-9 MIT四ッ谷三丁目ビル1F」です。
©MEGUMI KOMATSU
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