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馳走啐啄(銀座)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年6月10日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月23日

東京都中央区銀座6-7-7 浦野ビル2F  ☎03-3289-8010

営業時間12:00~14:30(13:00最終入店)、18:00~22:30(20:00最終入店) 

※昼の営業は平日のみ 定休日:日・祝休 コース予算:昼¥5,000〜、夜¥10,000〜

http://www.ginza-sottaku.com

*2016年「週刊新潮」35号掲載



精進料理、郷土料理、懐石料理が融合

日本料理の本質を伝える主人の心意気


 銀座の雑居ビルの2階にありながら、さりげなく茶道具が飾られた小体な店内は、どこか懐かしさを覚える落ち着いた雰囲気。茶人でもある店主の西塚茂光氏(57)が作る料理にも、やはり古き良き日本料理の風情がある。

 たとえば1万円のコースの先付は、標高1000㍍以上の信州の高地栽培された野菜の様々な歯応えや香りを生かした「煮浸しと蒸しアワビ」、もろみ味噌を添えた茹でたての「落花生」、南瓜の甘味に出汁の旨味が寄り添う「南瓜と海老のすり流し」など。目が覚めるようなパンチはないが、どの品も素材の滋味に溢れ、食べ終わる頃には自然そのものを味わったような豊かな心持ちになる。

「日本料理は昨今、見た目重視の傾向にありますが、本来は『きれい!すごい!』と興奮するような料理ではありません。見た目は地味でも、しみじみと染みわたるような味わいこそ本質。

 日本料理は精進料理、郷土料理、懐石料理などを総合したものですから、本当はすべてバランスよく学ぶ必要があるんです」

 実際、コースの中には全ての要素が含まれている。

 たとえば「赤ズイキの胡麻酢和え」は、動物性の素材を使わずに素材を生かす、精進料理の考えに基づく一品。ズイキはサトイモ類の葉柄部だが、各地で採れる中でも8月末から約3週間しか出回らない大阪泉州の赤ズイキは生で使えるのだとか。しゃきしゃきした食感と、胡麻酢のすっきりした味わいが心地よい。

 同じ時期に登場する「新サンマの水なます」は、千葉の郷土料理をアレンジし、細切りの生のサンマとキュウリなどの野菜を冷たい味噌汁に浸したもの。あっさりした味噌の風味と塩気に残暑の疲れが癒される。

「本来はイワシやアジを使って作る、豪快な漁師料理です。郷土料理は、夏には体を冷やす効果のあるキュウリを使うなど、理に叶ったものが多いですね」

 山海の幸の酒肴を盛り合わせた八寸は、ご存じの通り、懐石料理の定番。これには八寸(24㌢四方)皿を使用するなど、器使いは懐石料理に学ぶべきことが多いとか。十五夜にちなみ、「月とすっぽん」に掛けて9月に出す「すっぽんのお椀」には、月光を連想させる銀地の椀を使用。椀種の玉子豆腐を月に見立てて丸くし、中にスッポンの身をしのばせる遊び心も心憎い。

「日本人のもてなしの根幹にあるのは、相手を思いやる心。料理も、その心が原点だと思っております」

 天草の鱧や小浜の〆鯖、カマスなど、産直の旬の魚を楽しませてくれるのも、西塚氏の思いやりであろう。

「東西奔走して作った料理を最良の頃合いに供し、その想いをお客様に受け止めていただける店を作りたい」

 食材の準備のために走り回る「馳走」と禅語「啐啄」を合わせた店名は、店主のそんな願いを表している。


©MEGUMI KOMATSU

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