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不動前 すし 岩澤(不動前)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年6月27日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月23日

東京都品川区西五反田5-6-11 NSVビル 1F   ☎03-5436-8338    

営業時間 17:30〜22:00LO  

定休日:水曜、祝日の月曜、年末年始

コース予算:¥15,000〜 (税別)    

*2017年1月「週刊新潮」1号掲載


マグロは専用のシャリで握る

住宅街の鮨屋の求道精神


 西五反田の住宅街に、オープン9カ月にして連日満席の人気鮨店がある。扉を開ければ、桧のローカウンターに座り心地の良い肘掛け椅子が8席。店主の岩澤資之氏(41)は、元システムエンジニアだったという異色の経歴の鮨職人だ。

「大学時代にアルバイトした鮨店の楽しさが忘れられなかったんです。六本木と赤坂の鮨店で計15年修業させていただきました」

 メニューは1万5000円(税別)のおまかせコース1本勝負で、つまみと握りを合わせて約25品。日本酒もおまかせにすれば、おすすめの銘柄をグラス(半合)で見繕ってくれる。たとえば最初の1杯は「飛露喜」の冬限定の特別純米、かすみ酒。霞のように薄く濁った新酒で喉を潤すと、意外なことに握り鮨が登場した。

「『これから鮨を食べるぞ』というスイッチを入れてもらうために、ウチは最初に握りをお出しします」

 脂ののったサワラの昆布締めと鮨飯の赤酢の香りが相まって食欲が全開になるのは、口惜しいけれど狙い通り。以降は、「香箱蟹」「焼き白子の出汁浸し」「カワハギの肝和え」「穴子の白焼」など、お酒が進むつまみのオンパレードだ。合間には、江戸前の握り鮨が挟まれ、ここが居酒屋ではなく鮨屋であることを認識させる。

 お酒も楽しめるようにと配慮で、鮨はやや小ぶり。人肌のシャリの温度で魚介の風味が引き立つ握りは、つまみ感覚でするりとおさまる。

 さて、コースも中盤になると、ネタによってシャリの味が違うことに気付き始める。塩で味わう「真鯛」や「スミイカ」のシャリにはほのかな米の甘味があるが、「サヨリの昆布締め」などの締め物のシャリは赤酢の香りが利いているのだ。

「ウチでは修業先の赤坂見附『すし匠 齋藤』の流儀を受け継ぎ、シャリは3種類を使い分けています。ひとつは白身やイカ、貝類の握りに使う白酢のシャリで、他の二つは昆布締めなどの締め物に使う赤酢のシャリと、マグロ用の赤酢のシャリ。マグロ専用のシャリは、よりコクのある味付けです」

 違いを意識して味わえば、ほどよく締めた「コハダ」と見事な一体感のあるシャリは、やや茶色がかった色味で、赤酢の香りが華やか。コハダ自体も極上品だ。

「佐賀の海は湾なので、皮目が柔らかいコハダが捕れるんですよ。それに今年のは海苔を食べているようで、捌くとお腹から海苔の香りがしてきます。そのせいか今年は佐賀の海苔は不作なんですけどね」

 愛知産の香りのよい海苔を巻いた「生イクラの軍艦」に続いて登場した「中トロヅケ」のシャリは茶色味が濃く、中トロの旨味と一体感のあるコクのある味わい。魚の脂はさほど強くないが、とろけるような食感だ。

「マグロは築地の仲卸に頼んで身が柔らかいものを仕入れ、表面に飾り包丁を入れて、とろけるような口当たりを目指しています。マグロは鮨屋の看板ですから」

 3種のシャリを使い分ける求道精神と、人気の銘酒を揃えるもてなしの心に、都心からの常連客も増加中。


©MEGUMI KOMATSU

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