ふくい、望洋楼(表参道)
- 小松めぐみ
- 2018年6月19日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月18日
東京都港区南青山5-4-41 グラッセリア青山1F ☎03-6427-2918
営業時間 11:30〜14:00 LO(土、日、祝〜14:30LO)、17:00〜22:00 LO(日、祝21:00LO) 定休日:日曜、年末年始 ※11月6日〜3月末は日曜も営業
予算:蟹を含むコース30,000円〜、蟹を含まないコース6,000円〜(税サ別)
https://www.aoyama-bouyourou.com *2016年「週刊新潮」48号掲載

目利きが買い付ける越前蟹を
刺身、しゃぶしゃぶ、焼き蟹で
日本海の冬の味覚ズワイガニの中でも、福井以南で水揚げされる雄は獲れる場所によって呼び名が変わり、福井県では越前ガニ、山陰地方では松葉ガニと称される。そのうちの越前ガニを東京で味わうなら、明治時代に創業した福井の料理旅館「望洋楼」の姉妹店「ふくい、望洋楼」である。
「目利きの社長が競りで買い付けた最上級の越前ガニは、本店の水槽で数日間かけて泥を吐かせ、予約数に応じて“活け”で東京に運ばれています。11月6日の解禁以降はこれを楽しみに来店するお客様で連日満席。早めのご予約が無難です」
笑顔でそう語るのは、福井県出身の美人女将、山浦舞子氏(42)。本店から届いた越前ガニと雌のセイコ蟹は、店先の鍵付きの生け簀の人工海水に入れ、2、3日以内に出しているとか。
福井の古民家を移築した店内でメニューを開けば、越前ガニとセイコ蟹の両方が楽しめるコースは1名3万円から。ただし、このコースの越前ガニの調理法は“茹で蟹”1種類で、刺身としゃぶしゃぶも楽しめるコースは1名4万円以上だ。一方、単品の越前ガニは時価だが、訪れた11月末は1杯700㌘の「中」が2万3000円。これを注文すると、山浦氏が調理法を説明してくれた。
「茹で蟹の場合は1杯全部“茹で”でお楽しみいただきますが、茹でない場合は、脚は刺身やしゃぶしゃぶ、胴身は焼き蟹でお楽しみいただけます。量は、コースでは2名様で1杯分です」
色々な方法で楽しむべく、“茹で”以外の方法を選択すると、まず調理前の活け越前ガニがざるでお披露目された。脚に付いた黄色いタグは、正真正銘の越前ガニの証。甲羅に付いた黒い粒も良い蟹の目印だという。
「黒い粒は、カニビルという寄生虫の卵。カニは脱皮にエネルギーを使うので脱皮直後は身が痩せていますが、カニビルが付いているのは脱皮から時間が経っている証です。ですから、これが付いている蟹は、身が痩せていないはずなのです」
なるほど、脚は先端の細い部分にも身がしっかり詰まり、ジューシーでほの甘い。食べやすく殻が剥かれた脚の付け根は、表面が細かい花びらのように盛り上がって、刺身で食せば独特の食感が楽しめる。
「脚は流水に10分ほど漬けますが、すると皮膚呼吸で繊維が生き生きとし、プリッとするのです。活け蟹だからこその現象です」
脚の身は出汁でしゃぶしゃぶにして、淡白な味を満喫するもよし。続いて供される胴身は焼かれて繊細な甘みが増し、甲羅全体に盛られた蟹味噌は濃厚な味わい。甲羅に付着した白くてなめらかな薄い膜は“蟹の脂”で、上品ながら、熱燗が進む乙な味わいでもある。
次にお椀の具として登場した大きな蟹の爪は、どっしり重く、旨みが凝縮。
12月末までのせいこ蟹のメニューで特筆すべきは、丸1杯分の身と内子、外子をベシャメルソースと野菜と共に焼いた「グラタン」。
蟹尽くしの晩餐に心地よい満腹感をもたらす、師走の逸品である。
©MEGUMI KOMATSU
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