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またぎ(西麻布)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年5月16日
  • 読了時間: 2分

更新日:2018年8月23日

東京都港区西麻布3-1-15 PV 西麻布ビル1F   ☎︎03-3796-3388

営業時間18:00〜23:00    定休日:日曜、祝日 

*2016年「週刊新潮」10号掲載



「血を抜いた鴨なんて、鴨じゃねぇよ。血こそが美味いんだ」

東京・西麻布「またぎ」の店主が、炉端で鴨を焼きながら口を開いた。その道50年のベテラン猟師、大島衛氏(72)だ。1991年に神奈川・葉山で店を開いたところ、東京から訪れる客が大半を占めるようになったため、2007年に移転したのだという。

 扱う獣肉は鹿、猪、雉、熊など広範囲にわたるが、一番の名物は「鴨焼き」(前日までに要予約。1羽1万8360円)である。

「血を抜いていない鴨は、焼いて塩で食うのが一番。ソースをかける必要なんかないね。鉄砲で撃つと、弾で肉に穴が開いて血が抜けちゃうから、長野の知り合いに罠と網で獲って貰ってるんだ。1時間以内にマイナス60℃で瞬間冷凍し、神奈川県内の冷凍庫に移して保管する。で、注文の予約が入った数だけ、店に持ってくるんだ」

 まずは、レバーとハツがサッと炙られ、生のササミと共に出された。いずれも1羽からわずかな量しかとれないため、滅多に味わえない部位である。ササミさえも鉄分が豊富で濃厚な味わいがするのは、血抜きしていないからこそだろう。

 続いて、じっくり焼かれた鴨のムネやモモはジューシーで柔らかく、噛むほどに濃い肉汁が溢れ、血の旨みが深い余韻を残す。何だか体に野生の力が漲ってくるようだ。

「狩りに必要な資質は、動体視力と勘だろうな。飛んでる鳥や走っている獣の少し前を撃たないと、当たらない。俺の地元の横須賀は、冬になると鉄砲の音が聞こえるような土地だった。20代の頃に友人に誘われて始めたんだが、狩りに向いていたのか、すぐに上達した。今も週に2回、店が終わってから長野の山に行ってるんだよ」

 そう言いつつ、こんな過去を語る。

「3年前にライフルを発砲した時に、衝撃で鼓膜が破れて耳が聴こえにくいんだ。今も後遺症があるから、ライフルはやめて、ショットガンだけにしている。別のスタッフが鉄砲を始めるから、彼が1人前になったら俺も引退だな。あと何年もできないよ」

 一方、店で唯一の養殖ものである「地鶏唐揚げ」(モモ1本2700円)」も、葉山時代からの人気の品だという。

「鶏はよく出るから、山で獲っても供給が間に合わないんだよ。養殖だけどブロイラーの倍の期間をかけて育てられた地養鶏だから、美味いよ」

 塩と胡椒で下味をつけ、小麦粉をまぶして、キャノーラ油で揚げた骨付きのモモ肉は、皮はパリッと、中はジューシー。骨を持ってかじりつけば、ワイルドな気分だ。

「でっけえ方が食った気がするだろ」

 72歳の現役またぎにパワーを貰った。


©MEGUMI KOMATSU

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