まめたん(根津)
- 小松めぐみ
- 2018年6月28日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月22日
東京都台東区谷中1-2-16 1F
☎080-9826-6578
営業時間 12:00〜14:00、18:00〜22:00
定休日:月曜
コース予算:¥5,800〜 要予約
*2017年1月5日発売「週刊新潮」2号掲載

名店出身の若き主人が営む
レトロな街の楽しい割烹
かつて火鉢などで使われた豆炭は、大正時代に生まれた固形燃料。もはや知る人も少ない存在だが、
「私が2015年2月に店を開く前、ここには豆炭屋があったんです。谷中の昔ながらの街並みには今風の名前はしっくりこないと思い、レトロなイメージの豆炭を店名にしました」
そう言って言問通りの一軒家でカウンター7席と個室1室の割烹を営む秦直樹氏(30)は、料理もサービスも一人でこなす段取り上手。20代に紀尾井町「福田家」や神保町「傳(でん)」(現在神宮前に移転)などの名店で経験を積んだ、日本料理界の若手ホープだ。
料理はおまかせで約10品、5800円(税別)。好みを聞いて見繕ってくれる日本酒は常時60種類と豊富で、そのつまみとして出される先付は山椒をふった釜揚げシラス。飲みながら料理を待つ間には、厨房と客席と酒の冷蔵庫を行き来する秦氏の動きの無駄のなさに気付かされる。一生懸命な姿の好感度のためか、客たちは待つのが当たり前という顔で杯を交わす、のんびりした谷根千ムードだ。
おもむろに登場した2品目は、大ぶりな陶器のコーヒーカップで作られた「フルーツトマトとブルーチーズの茶碗蒸し」。レトロな店の雰囲気からは意外なほどモダンな取り合わせだが、玉子と出汁のやさしい風味に、フルーツトマトの酸味とブルーチーズのコクがさりげなく調和した名作だ。
「初めてのお客様には必ずお出ししています。茶碗蒸しは、具材を変えて出すことが多いですね」
名刺代わりの一皿に続いて登場したのは、旬の黒トリュフをたっぷり削ってかけた「牡蠣の天ぷら」。黒トリュフの香りと牡蠣の旨味が相まった逸品だ。
和洋折衷の取り合わせが楽しい品々の後は、「北海道噴火湾産の帆立の刺身」「フグの焼物」「厚岸の蒸し牡蠣」など、正統派の趣。しかし、これに珍しい薬味を添えるのが秦流だ。
「帆立に添えたピラミッド塩は、インドネシアの岩塩です。くずして帆立にかけると食感にアクセントがつくんですよ。牡蠣に添えた柑橘は“フィンガーライム”です。断面から実を絞り出して、牡蠣にのせてお召し上がり下さい」
試してみれば、フレーク状の塩は帆立の甘味を引きたて、ライムのような香りと酸味をもつ柑橘の粒は蒸し牡蠣と抜群の相性。以降も、御節料理の脇役だった「千代呂喜(ちょろぎ)」の素揚げや、アンキモのディップを添えた「ハタハタの塩焼き」など、ほどよくひねりの利いた料理が続々登場する。
メインは子どもの頭ほどの大きさがある「天蕪(てんかぶ)」の丸焼き。焼き上がった天蕪を客席に披露する秦氏は満面の笑みで、こちらもつられて顔がほころぶ。
「丸焼きは大好きな調理法なので、天蕪やマグロの頭など、丸焼きに向く素材が手に入った時はお出しします。目標は、自分もお客様も楽しめるお店にすること。自分が楽しまないとお客様に伝わりませんから!」
若き主人がかもし出す、楽しい空気もご馳走だ。

©MEGUMI KOMATSU
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