ラ・ボンヌ・ターブル(日本橋)
- 小松めぐみ
- 2018年3月10日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月30日
東京都中央区日本橋室町2-3-1 コレド室町2、1F
☎︎03-3277-6055
営業時間11:30〜13:30LO、18:00~21:30LO 無休
予算:ランチ3,600円 ディナー6,800円
http://labonnetable.jp
*2014年「週刊新潮」38号掲載

お江戸日本橋の粋と度量が息づく“旨い店”
泉鏡花が紅燈の巷に生きる芸妓を描いた戯曲「日本橋」。再開発が進んだ現代の日本橋に文豪が綴った艶な面影はないが、美味しい店が多いのは花街のDNAである。
2014年3月、「コレド室町2」の開業と同時に誕生した「ラ・ボンヌ・ターブル」は、なかでも評判の店だ。店名は直訳すると「美しい食卓」という意味だが、フランスでは「旨い店」という意味で使われる。
こちらは、東京・西麻布にある美食家好みのフランス料理店「レフェルヴェソンス」による新業態。慶大卒と異色の経歴を持ち、海外の超有名店で研鑽を積んだ生江史伸氏の料理哲学を、よりカジュアルかつリーズナブルに表現する店である。
わけても興味をひかれるのは、料理一皿ごとに相性のよいジュースを合わせて出すコースがあること。今どきワイン・ペアリングは珍しくないが、ジュースで同様のことを行なっているのはここぐらいだろう。
期待に胸をふくらませて訪れると、外観はカフェかビストロかと思わせる佇まい。案内された窓際席のテーブルはクロスがなく小さめで、料理が運ばれるといささか窮屈になりそうだ。店内を見回すと、オープンキッチンの前には8名掛けのシェフズ・テーブル、奥にはソファタイプのブース席がある。スタッフの制服はデニムと、意外なほどカジュアルな雰囲気だが、マネージャーの説明を聞き、得心がいった。いわく、「レフェルヴェソンスで2番手を務めた中村和成シェフがガストロノミー(高級店)と同じ発想でつくる料理を、リラックスして楽しんでいただきたいのです。ビストロではなく『カジュアル・ガストロノミー』と名乗っているのも、そういう理由です」
メニューはプリフィクスコース1種で、内容は前菜(2択)、「時季の野菜の一皿」、メイン(3択)、デザート、食後の飲物。最初に登場したサラダはいわゆる先付だが、マロンかぼちゃ、ハラペーニョ、黒唐辛子、万願寺唐辛子、食用ほおずき、そうめんかぼちゃ、ポワローなど、野菜の種類が豊富でボリュームたっぷり。次の「キタアカリのフライドポテト」もメニュー外の品だ。袋菓子のような銀色の袋を開けると、中からスモーキーな香りが漂う。キタアカリは、少し熟成させて桜のチップで軽くスモークし、3度揚げしている。外はカリッと、中はムースのようにとろけた。
そして前菜からの3品は、料理自体の完成度の高さもさることながら、前述した通り、ジュースとの合わせ方が斬新だ。たとえば炭で炙った鰹には、しそとバラが香るクランベリージュース。鰹の鉄分とローズティーのタンニン、クランベリーの酸味がよく合う。甘酸っぱい冷製トマトスープにはシソのジュース、メインの鮎にはスイカのジュースが、素材を引き立てながら寄り添った。
記念日でも、お酒を飲めないこともある。“旨い店”は下戸にもやさしく、お江戸日本橋の粋と度量が受け継がれている。
©MEGUMI KOMATSU
Comments