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一新(代々木上原)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年7月5日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月22日

東京都渋谷区元代々木町10-3 第二高宏ビル1F  

☎︎03-3467-8933

営業時間12:00~14:00、18:30~22:00  

定休日:日、祝日 予算¥8000〜(税サ別)

*2017年3月15日発売「週刊新潮」12号掲載



「なるべく養殖物を使わない」

旬の魚料理と、名店譲りの味


 東京・代々木上原と代々木八幡を結ぶ地蔵通りは、小田急線の線路の北側に伸びる商店街。その一角で1991年に創業した「まるなべ一新」は、知る人ぞ知る名店である。

看板は気取りのない商店街に溶け込んでいるが、主人の関新三郎氏(66)は政財界の重鎮が通う赤坂の名店「津やま」出身。

 コースは前菜から水菓子まで9品で8000円(税サ別)。3月中旬のコースは「菜の花の辛子和え」「蛍烏賊の酢みそ和え」「カラスミ大根」の盛り合わせと、「あさりの飯蒸し」から始まった。

 家庭でも馴染みの料理に見えて、その違いは明白。たとえば、茹で上げただけのように見える「菜の花の辛子和え」は、辛子を溶いた出汁に漬けて味を含ませ、絞ったものだ。その手間をかけることで余分な水分が抜け、品が生まれる。見た目は素っ気ないが、しっかりと仕事が成されているのが伝わってきて、心が躍るのだ。

 2品目の「沢煮椀(さわにわん)」は千切りのうど、たけのこ、三ツ葉、椎茸が香り高くシャッキリとした食感で、吸い地には澄んだコクがある。さらに胡椒の香りも相まって中華風の趣もあるが、豚の脂が使われていると聞いて耳を疑った。

「沢煮椀は鰹と昆布の出汁だけだとあっさりし過ぎるので、野菜を炒める時に豚の脂を使ってコクを出しているんですよ。炒り上がったら脂は捨てるのですが、これは『津やま』か流の作り方。後ほどお出しする『刻み野菜』と『鯛茶漬け』も『津やま』譲りの味です」

 お造りの鯛、メバチ鮪、サヨリは、どれも近海の天然物。勝浦の一本釣りのメバチ鮪は旨味が濃厚で、さらりとした脂がのっている。

「なるべく養殖物を使わないようにしているのは、養殖物は脂が多いから。うちのお客様は60代の方が多いもので。若い人にももっと和食を好きになってほしいんですけれどね」

 4品目の「マナガツオの西京焼」は若者ウケもよさそうな甘辛味だが、続く「たけのことふきの炊き合わせ」は淡い味わい。余分なえぐみがなく、素材本来の鮮やかな香りが楽しめる。炊き合わせこそ、かつて「津やま」の煮方を務めた関氏が本領を発揮するところだろう。

 6品目は、たっぷりと盛られた白魚と山菜の天ぷら。ふきのとうやたらのめのほろ苦さを味わい、宍道湖(しんじこ)産の白魚のふわふわした食感を楽しめば、気分もふわりと春めく。続いて出される「刻み野菜」は、長ねぎ、うど、人参、きゅうりを千切りにして冷たい出汁をかけたもので、天ぷらの後の口直しにうってつけだ。

 〆の「鯛茶漬け」は、まずは胡麻だれで和えた鯛の細切りを白飯にのせて一口。次に焙じ茶をかけると、胡麻の香りがふわりと立つ。

「養殖の鯛だと脂から臭みが出ることがありますが、天然物は心配ありません」

 モダンさに倦んで、奇をてらわぬ“地蔵”のような安定感を堪能したいなら、好適な場所である。


©MEGUMI KOMATSU

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