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七尾(麻布十番)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年8月2日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月23日

東京都港区麻布十番1-5-10 第二石原ビル1F   ☎03-3401-7770

営業時間 17:30 ~21:30LO(土曜21:00LO) 定休日:日曜、月曜、祝日

コース予算:¥8,000(税サ別) 

*2018年1月18日発売「週刊新潮」3号掲載

女将のセンスが溢れる割烹で

独創的な和食とステーキを満喫


 かつてスタイリストとして活躍した七尾かつ子氏(75)が率いる「七尾」は、1985年から愛される和食店。麻布十番商店街の路地に面した扉を開けると、作務衣姿の女将が明るい笑顔で迎えてくれる。奥に進めば、オープンキッチンで調理を担当するスタッフも皆女性。そのせいか店内には柔らかな雰囲気が漂い、初めてでも肩の力を抜いて寛ぐことができる。

「なぜ女の子だけかと言えば、開業時は私の下で働いてくれる男性なんていないと思っていたからなの」

 男性客のウケを狙って女性スタッフを集めたわけではなく、女将がリーダーシップを取りやすいのが男性より女性なのだとか。

「私は日本料理の修業を積んだわけでもないですしね。スタイリストを引退した後は六本木で5年間喫茶店を経営していました。その後、某人気飲食店で無給で働かせてもらったり、名店に通ったりはしましたけれど、料理は独学なんですよ」

 女将が毎月考案するおまかせコース(8000円、税サ別)は、食後の甘味を含め約10品。旬の食材を生かした先付から始まり、揚げ物、お造りと続いて、中盤に飯蒸しを挟み、最後は和牛の陶板焼が定番だ。

「今月はお節料理には皆飽きているので、違うもので季節感を表し、春の訪れを囁く食材も取り入れました」

 という1月のコースの先付は、柔らかな粟麩に甘いくるみダレをかけたものと、数の子ととんぶりを和えた芹のお浸し。どちらもやさしい味わいでモダンな印象だが、実は前者は女将の故郷青森県の正月料理、「ごま餅」に因んでいるとか。

「『ごま餅』の材料は焼いた餅を湯で温めたものと甘塩っぱいごまダレですが、これを粟麩とくるみペーストにアレンジしたのです」

 3品目の揚げ物は、旬の海老芋と走りのフキノトウ、そしてほろ苦く甘い“柚子皮甘煮”の天ぷら。

「早春は体がほろ苦いものを欲するはずなので、フキノトウや柚子皮を使いました。さて、次はおしのぎです。悪酔いしないようにご飯をどうぞ」

 ほっくりした百合根の飯蒸しに重湯をかけ、梅肉を添えたおしのぎは、実にやさしい味わいだ。

 続く2品はいずれも手の込んだもので、卵の素(たまのもと:卵黄と油を混ぜ、醤油、砂糖で味付けしたもの)で和えた春菊をのせて焼いた鰆と、すりおろした慈姑(くわい)を葛で寄せた“慈姑豆腐”のみぞれ椀。慈姑のほろ苦さを味わえば、都会にいながらにして自然の恵みを感じられる。

「美味しいのは当たり前。手間をかけることで心が込もるのだと思いますから」

 と言われれば、もてなされる嬉しさもひとしお。

 和牛の陶板焼は柔らかな肉の旨みもさることながら、醤油とワインとのタレも逸品。薦められてタレをご飯にかければ、ホッとする美味しさだ。自由で家庭的な空気もご馳走である。


©MEGUMI KOMATSU



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