中国料理 古月 新宿(新宿御苑前)
- 小松めぐみ
- 2018年6月2日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月23日
東京都新宿区新宿1-5-5 御苑フラトー2F ☎03-3341-5204
営業時間11:30〜14:00LO、17:30〜21:00LO 定休日:月曜
予算:ランチ1,200円〜、ディナー季節の食養生コース5,616円〜
*2016年「週刊新潮」31号掲載

中国の薬膳料理で食養生
なんだか気だるい……。体の不調に見舞われやすい梅雨の季節、中(国)医学の考えに基づく薬膳中華を目当てに、東京・新宿御苑の向かいにある「中国料理 古月 新宿」を訪れた。
名物の「季節の養生コース」(全7品5,616円)は2010年に暖簾分けした際に登場して以来の人気。内容は年に8回替わり、初夏は体内の余計な水分を排出し、消化器を元気にする「健脾化湿」がテーマ。
「様々な不調を招く梅雨の湿気を中医学では“湿邪”といいますが、今回は湿邪による消化器官不調を想定したメニューを組みました」
そう語る店主の前田克紀氏(39)は日本に数人しかない「高級営養薬膳師」有資格者のひとり。この資格を得る条件は実働年数10年以上、「中華中医薬学会」への論文提出2本、理事会承認という過程を得なければならない。取得者は中国国内でも薬膳料理店を出せるという。
美しい前菜4種の盛り合わせに始まったコースの2品目は、「ウズラの甘辛炒めカルダモン風味」。四川料理でお馴染みの「鶏のカシューナッツ炒め」と同じ味付けで、上に散らされた煎りハトムギの食感はあられのよう。カルダモンの甘爽やかな香りのアクセントもいい。続く「季節の養生スープ」は、運ばれた瞬間に牛肉の香りが湯気にのって鼻をくすぐる「牛肉の酸辣湯」。牛バラ薄切り肉と春雨入りのスープは一般的な酸辣湯と姿形こそかけ離れているが、酸味と胡椒の刺激が利いた味の構成は酸辣湯そのもの。一口ごとに染み入る牛肉のエキスは「気」を補い、酸味付けのハイビスカスには利尿作用があるという。
どの料理も薬膳=生薬臭いという先入観を覆す味わいだが、実は生薬を使わないことは前田氏のコンセプトのひとつだという。
「中国の伝統的な医学では、薬と食材は同一線上にあり、人体に対する効能が強いものが薬となり、日常的に摂取できるものが食材となります。1980年代の次薬膳ブームの時のように闇雲に生薬を使うのではなく、食材を選んで組み合わせれば薬膳を作ることが可能なんです。薬膳は一度や二度食べただけで効くものではなく日常的に摂取することで効果を発揮するものですから。それに料理としての美味しさがあることが大切だと思います。
メニューをよく見れば、献立の下には食材の効能が列挙されている。例えば生姜、うり、はとむぎ、小豆、カルダモン、鯉、オオバコは、体内の過剰な水分を排出する“利水化湿”、うずらや牛肉は消化器を元気にする“補気健脾”の食材だ。
メインの「鯉と小豆の煮込み」は、紹興酒や赤ワインや小豆と共に煮込んだ鯉に、オオバコの葛餅を添えたもの。川魚の風味とオオバコの草の香りがよく合う。
窓外の御苑の緑を眺めつつ食養生を実践すれば、身も心も癒される。
©MEGUMI KOMATSU
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