中國菜・老四川 飄香 麻布十番本店(麻布十番)
- 小松めぐみ
- 2018年6月30日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月23日
東京都港区麻布十番1-3-8 FプラザB1
☎03-6426-5664
営業時間 11:30 ~14:00 LO、18:00 ~21:30 LO
定休日:月曜、第3火曜
コース予算:昼¥1,500〜、夜¥9,000〜(税別)
http://www.piao-xiang.com
*2017年1月19日発売「週刊新潮」4号掲載

凄腕シェフのフィルターを通して楽しむ
四川料理の伝統と流行
「昔の四川の趣が漂い香る」という意味の店名にふさわしく、入口の扉を開けると、中国伝統の建築様式「四合院(しごういん)」の中庭を模したクロークが現れる。2つ目の扉の先に現れる店内は、壁の山水画や天井から下がる鳥籠が中国情緒満点だ。
「料理のテーマは古き良き四川料理を日本人のフィルターを通して甦らせること。麻婆豆腐や担々麺などの辛い料理だけではなく、本場の様々な味をお伝えしたいと思っています」
と語る井桁良樹(いげたよしき)氏(46)は、テレビでも活躍中の人気シェフ。2005年に開業する前の2年間は上海と四川で腕を磨いたが、現在も年に2度以上四川省を訪れる情熱家である。
そんな井桁氏の手にかかれば、かつて陳建民が日本人向けに完成させた「エビチリ」も本場の味に近づく。
「本場四川の天使のエビのチリソース」(1皿4尾2800円)は、甘酸っぱくて辛いソースに小海老がまみれているのではなく、殻付きのまま炒めた大きな海老にさらりとした煮汁をかけたもの。柔らかな殻ごと食す海老は風味豊かで、共に炒めた大根の漬物は海老の甘みを引き立てる名脇役。途中、唐辛子のピクルスをかじれば穏やかな辛味が重なり、ようやく和製エビチリとの接点が見つかる。
「『干焼明蝦』の干焼とは、水と調味料を加えて水分がなくなるまで煮詰める調理法のこと。当店ではニューカレドニア産の『天使の海老』を煮詰め、風味を生かしています。一方、本来のレシピで使う芽菜という漬物は、大根の漬物に換えました。芽菜だとご飯が進む味になりますが、日本ではエビチリはご飯と一緒に食べる人が少ないので、優しい味に仕上げるためです」。
人気の「張飛霉牛肉」(3800円)も、本場の伝統料理をアレンジした一品だ。
「四川省には『三国志』の張飛が滞在していた場所があり、オリジナルはそこの名物の、ビーフジャーキーのような料理です。何百年も昔の料理をそのまま甦らせても現代の味覚に合わないので、干して熟成させた肉を使う代わりに、熟成牛を使いました。レアにローストした牛肉の断面の赤さを、怒った張飛の赤い顔になぞらえています」
大皿いっぱいの唐辛子の上に並んだ熟成牛の断面は、食欲をそそるピンク色。唐辛子と花椒のスパイシーな香りは、濃厚な肉の旨味と相性抜群だ。もも肉といっても和牛ゆえ、程よくサシが入った肉は実に柔らか。
豚肉ともち米の間に餡子を挟んで蒸した『甜焼白』(2400円)は、現地で流行中の「農家楽」の流れを汲んだメニュー。
「成都は近年都会化が進んでいて、ビルは高層化、道路は渋滞しています。そのため人々の間で流行っているのが、郊外に出かけ、農家で獲れた食材で作った田舎料理を楽しむ『楽』。『甜焼白』は冠婚葬祭に欠かせない田舎料理です」
熱々の餡子と餅米との相性は「おはぎ」のようだが、豚肉と共に味わえば異国の味わい。その素朴な趣は、四川省の古き良き時代を連想させるのだった。
©MEGUMI KOMATSU
(2018年8月19日追記)
2018年秋より麻布十番本店のメニューはコースのみ、アラカルトは六本木ヒルズ店
での提供となります。
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