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六雁(銀座)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年5月26日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月25日

東京都中央区銀座5-5-19 ポニービル6F・7F  ☎03-5568-6266(予約受付10:00〜17:00)

営業時間17:30〜23:00   定休日:日曜・祝日 コース¥13,500〜 要予約 

http://www.mutsukari.com

*2016年「週刊新潮」18号掲載



「野菜はものを言いませんが、人間に豊かさを与えてくれ、体を浄化してくれる。そんな野菜の力を伝えたいと思っています」

 2004年の開業時から総料理長を務める秋山能久氏(41)は、目黒の割烹を経て、精進料理の名店で修業した料理人。その経験を生かして作る「六雁(むつかり)」のコースは、120種類以上もの野菜を使うのが特徴だ。

 6階でエレベーターを降りると、広々とした店内には大きな桧のカウンターと御影石のカウンターが垂直に配され、その内側は床まで見えるオープンキッチン。

調理台はカウンターと同じ桧や御影石でできており、客席の一部が厨房になっているかのような雰囲気だ。

「オープンキッチンは、料理人とサービスマンが溢れるエネルギーで祭りを演じる“舞台”。精進料理のようなストイックな形ではなく、もっと楽しく野菜の力を伝えていきたいと考え、こうしたスタイルにしました」

 コンセプトは“スーパー歌舞伎”ならぬ“スーパー割烹”だとか。メニューはコースのみで3種類あり、野菜料理だけで構成される10品1万3500円のコースと、魚も肉も使ったコースが2種類。接待や会食で人気の1万5000円の「シェフのおすすめコース」を注文すると、まず前菜の「掛け軸盛り」が登場した。

 黒い器は掛け軸のような縦長で、ひとまわり内側の9㍉凹んだ部分に、水菜やせり、三ツ葉などの野菜のおひたしと、五島列島の蛸、鯛の子、空豆、百合根が美しく盛られている。まるで洋食のような華やかさだ。

「器は自分でデザインしました。料理は消えてなくなる芸術ですが、器は食べ終わった後も残るので、その美しさも大切にしたい」

 再び器と盛りつけの斬新さに驚いたのは、3品目の「水茄子の寿司」。横長の黒い皿にはひと回り小さい焼き海苔が敷かれ、その端に水茄子の握りが置かれている。自分で海苔を巻きつけて食せば、海苔の風味とご飯の甘味、水茄子のみずみずしさが三位一体で絶妙だ。

 残りの8品は「お造りの盛り合わせ」や「鰹の藁焼き」「ローストビーフ」などを盛り込んだ贅沢な内容だが、名物は胡麻豆腐と「野菜の煮こごり」。胡麻豆腐は、この日は椀種として、旬の油目や筍と共に登場した。出汁と木の芽の香りを楽しみ、胡麻豆腐を口に入れれば、ゴマの風味がとろけるように広がる。

「ごま豆腐は月心寺の庵主から受け継ぐ定番で、ごまを摺るのにも練るのにも30分以上かけて作っています。精進料理の世界では、ごまを摺ることは精神統一のための『行』。すり鉢という小宇宙に気持ちをこめて摺ります」

「季節野菜の煮こごり」の色とりどりの見た目はフランス料理のテリーヌのよう。使われている10種の野菜は、それぞれ異なる調理法で下ごしらえされている。

「どのように調理されたいか、野菜の気持ちに寄り添うことが大事です。それが料理人の愛情です」

 野菜の力で体が浄化され、シェフの言葉では心が浄化されるのだった。


©MEGUMI KOMATSU

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