匠 信吾(青山一丁目)
- 小松めぐみ
- 2018年3月16日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月25日
東京都港区南青山2-2-15 ウィン青山1F
☎︎03-6434-0074
営業時間18:00〜23:00
予算:¥20,000 定休日:水曜
*2014年「週刊新潮」46号掲載

シャリの「赤白」を使い分ける
当世流江戸前鮨
鮨屋で「紫」といえば「醤油」のことだが、最近の店では「赤」と「白」なんて掛け声が飛び交う。
2013年5月、青山一丁目駅近くの裏路地にオープンした「匠 進吾(たくみ しんご)」も、そんな店。扉を開けると、35歳とは思えない貫禄を湛えた、大将の高橋進吾氏(35)が迎えてくれた。
8席が並ぶ白木のカウンターでは、木箱に入った約30種のネタが輝いている。
『おまかせでお出ししますが、お苦手な食材はありますでしょうか?』と声をかけられ、それに答えるとコースが始まる。取材当日の「おまかせコース」は、煮蛤から始まり、白身の昆布〆、ヤリイカの印籠寿司、コハダの握りと続いたところで、
「赤、お願い!」
と、大将。「赤」というのは、粕酢で味付けした「赤シャリ」のこと。米酢の「白シャリ」が一般的になってからも、江戸前鮨の伝統を守って赤シャリだけを使う店はあった。が、「匠 進吾」は、魚の個性によって2つを使い分ける。
「味の濃いものや脂の乗ったものは赤シャリで、白身などの繊細な魚介は白シャリで握っています」
と、大将が出してくれたのは、赤シャリのサワラのコブ〆。口中に広がる脂肪の濃厚な余韻を、シャリのふくよかな酸味と甘味が追いかける。後味がさっぱりしていた白シャリのコハダとは、また違う趣がある。
このスタイルは、高橋氏が18年修業を積んだ四ツ谷『すし匠』で生まれたもの。店主の中澤圭二氏が、鮨の美味しさを追求する過程で2種類のシャリを使い分けるアイディアに辿り着いたという。そして、高橋氏のように独立した数人の弟子に受け継がれ、今では10店舗を超える暖簾分け店によって、鮨界の新たな潮流になりつつあるのだ。
「私は16歳で弟子入りしてから『すし匠』一筋だったので、30歳を前にして『井の中の蛙になってはダメだ!』と、中澤親方に尻を叩かれまして。九州で漁師をしたり、東北の造り酒屋で働いたりしながら、魚と酒を大切に扱う姿勢を学びました」
蔵元で身につけた利き酒の知識は、日本酒の品揃えにも活きる。旨みとキレのバランスがほどよい宮城県の「日高見」など、純米酒を中心に12種類以上が用意されている。
つまみも握りも一口サイズだから、ついつい食が進み、気づけばコースも後半。昨今のトレンドである「熟成モノ」も登場した。
「魚をねかせると身が柔らかくなり、シャリとのバランスが良くなる。今日のマグロの熟成期間は2週間で、カンパチは3週間。マグロは香りが出て味が濃くなり、カンパチは余分な水分が抜けて味が締まっています」
大将は客の満腹具合を察すると、まだ出していないネタを教えてくれ、最後は「お好みで」となる。今回は、つまみが10品に、握りが12貫。赤シャリで供されたのは、サワラ、車海老、イワシの酢〆、〆サバ、トロ、カンパチの6貫だった。総計20品前後、さんが平均的な品数で、予算は飲物代込みで2万円ほどだ。
赤白を交互に味わう、これぞまさに至福の時――。
©MEGUMI KOMATSU
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