地蔵鮓(白金台)
- 小松めぐみ
- 2018年4月22日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月25日
東京都港区白金台3-18-5 NKビル2F ☎︎03-3445-5301
営業時間:月〜水(昼のみ)12:00~14:00、木〜土(夜のみ)16:30~21:00
定休日:日曜(祝日不定休) 予算:昼3,240円、夜約15,000円〜 ※予約が無難
*2015年「週刊新潮」40号掲載

すしの漢字には「寿司」「鮨」「鮓」の3つがある。「寿を司る」という縁起担ぎの当て字が生まれたのは江戸時代で、もともと関西では「鮓」、関東では「鮨」が使われていたという。
その傾向は今も変わらないが、東京・白金台の「地蔵鮓」の武田求弘大将(47)は、こう言う。
「もともと『鮓』が米に魚を漬けて発酵させた“なれずし”の原型を指す語であるのに対し、『鮨』は本来、中国で塩辛を意味する語。私は塩辛ではなく、米を使ってすしを作っているわけですから、『鮓』の字を使うのが道理ですよ」
細部にまで徹底的にこだわるのが、大将の持ち味と見た。というのも、店の扉を開けた瞬間から、内装に趣向を凝らしていることが一目瞭然だからである。
「上質なネタで握るすしに相応しい空間にしようと、細部にわたって指示・提案しました。私が神社仏閣と茶室を巡るのが好きなので、その2つに共通する数寄屋造りを取り入れ、天井にはケヤキ、壁にはじゅらく壁と秋田杉、カウンターには桧を使い、そこに鹿鳴館で使われていたものを再現した椅子を配置しているんですよ」
何だかお勘定が心配になってきたが、おまかせ握りの予算は14カンと巻物1本で1万2000円。もちろん、そこにも大将のこだわりが詰まっている。
出水(いずみ)のスミイカ、利尻の平目の昆布締め、大間のマグロといった名産地の旬のネタに続いたのは、一味変わった江戸前の「車海老」。迫力満点の大きな身とシャリの間に、海苔が挟まっているのだ。
「これは、古い江戸前すしの文献に書かれていたものを再現したんです」
と、武田大将。
「親方に教わったことを踏襲するだけでなく、日本の伝統食であるすしの歴史を勉強しなければと思い、30代の頃に国会図書館に通って文献を読み漁りましてね。海老とシャリの間に海苔を挟む握り方はなぜか時代と共に忘れられていたようですが、私は海苔によって大車海老の繊細な旨味が引き立つと思い、取り入れることにしました」
確かに、海苔の微かな香りが海老の風味を引き立てる。一方、口の中ではらりとほどけるシャリには、仄かな甘味がある。だが、砂糖は一切加えていないとか。
「特注のかまどと羽釜を使い、沸騰させたお湯で米を炊いています。『湯炊き』という江戸前ずしの伝統的な手法なのですが、手間がかかるので、自動炊飯器の普及とともにほとんど使われなくなりました。でも、この方が米がパラッと炊き上がり、粕酢を合わせてシャリを切る時にも粘りが出ず、米粒にハリが出る」
さらに文献から学んだことはツメの使い方で、
「昔は煮蛤には蛤の漬け汁で作ったツメを、アナゴにはアナゴのツメをと、複数のものを使い分けていたのだそうです。今はアナゴと蛤のツメのみですが、今後はツメの種類を増やしていきたいと考えています」
数寄屋造りの空間で伝統的な江戸前寿司を味わう、風流な夜であった。

©MEGUMI KOMATSU
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