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天ぷらと和食 山の上(御茶ノ水)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年4月18日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月25日

東京都千代田区神田駿河台1-1 山の上ホテル本館1F  ☎︎03-3293-2831

営業時間 11:00~15:00LO、17:00〜21:00LO(土日祝15:00〜) 無休

予算:昼¥2,800〜、夜¥9,800〜 https://www.yamanoue-hotel.co.jp

*2015年「週刊新潮」35号掲載



「辛口タレ」で味わう

池波正太郎の縁の「天丼」


<てんぷら屋に行くときは腹をすかして行って、親の敵にでも会ったように揚げるそばからかぶりつくようにして食べていかなきゃ、天ぷら屋の親父は喜ばないんだよ>

 こんな一家言を著書『男の作法』に遺したのは、食通として知られた時代小説作家の池波正太郎。彼が贔屓にしていた天ぷら屋は数あれど、晩年はもっぱらここだったという。定宿としていた東京・神田「山の上ホテル」にある「天ぷらと和食山の上」だ。

「これは先代の料理長に聞いた話なんですがね」

 と、総調理長の島貫茂氏(50)が語る。

「うちの天丼のタレには、醤油に砂糖を入れた甘口と、砂糖の代わりに酒とみりんを入れた辛口の2種類があって、辛口の方は池波先生のリクエストで生まれたのだそうです。先生が亡くなる少し前にウチの天丼が食べたいとおっしゃって、先生の好物だった海老の天ぷらだけを3本のせた特注の天丼に、辛口のタレをかけてお届けし、大変喜ばれたそうですよ」

 そんな逸話も遺した作家の足跡ならぬ“食跡”を辿るべく、刺身、天ぷら、天丼からなる全9品のコース(9000円)を注文すると、さっそくマグロと鯛の刺身が供された。

「池波先生は、天ぷらと一緒に必ず刺身を召し上がったそうです。身を分厚く切るのが、うちの伝統です」

 マグロと鯛の刺身はどちらも上等で分厚く、想像以上に食べ応えもある。

 次に、池波氏の好物だった「海老」の足から天ぷらが始まった。

「天ぷらはその日の湿度や気温、素材の大きさや重さによって、揚がり具合が変わります。昨日上手くできたからといって、今日も同じやり方をしてはダメ。特に海老は太さに個体差があるので、揚げるのが難しいネタなんですよ」

 そう島貫氏は言うが、最も美味しい腹の部分を殻付き、脚付きで揚げた海老は見事である。殻や脚は香ばしく、胡麻油の上品な香りが漂う。少しだけ殻に残った腹の身には、甘味がある。

「うちの油は、軽く煎ってから搾った太香胡麻油と、無臭の太白胡麻油を、独自にブレンドしています。太白胡麻油だけだと香りがなく、太香胡麻油だけだと胡麻の香りが強過ぎるんです」

 続いて登場した、海老、銀杏、キス、レンコン、ハモ、アスパラガスの天ぷらは、どれも薄い衣をまとってからりと揚がり、魚はふっくらとした口当たりが、野菜はシャキッとした歯応えが良い。

 最後は、池波氏のリクエストで生まれた辛口のタレで、野菜のかき揚げがのった天丼をいただいた。かき揚げを箸で切ると、ネタの水分と共に舞茸の良い香りが立ち上り、すっきりとした味わいの辛口のタレと良く合う。

 美味しさのあまり、親の敵を取るかの勢いで食べたせいか、島貫氏は上機嫌でこう教えてくれた。

「来週は、名物の丸十(さつまいも)が始まりますよ」

 天ぷら屋の親父を喜ばすと、美味しい情報を逃さず得られるようである。




©MEGUMI KOMATSU

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