天ぷら真(銀座)
- 小松めぐみ
- 2018年5月11日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月23日
東京都中央区銀座7-7-16 西七番館ビル1F ☎03-3571-1380
営業時間11:30~14:00、17:00~21:30 定休日:日曜、祝日
予算昼¥5,400 夜¥11,880〜 要予約
*2016年「週刊新潮」16号掲載

煮るでも焼くでも、刺身にするでもなく、丸ごと天ぷらにしたアワビに、別添えのキャビアを少しのせて、いただく。
東京・銀座「天ぷら真」の名物は、なかなかお目にかかれない美味である。
「ホテルオークラの日本料理部門に勤務していた時代に、フランスの日本大使館に派遣され、そこでキャビアをよく使った経験から生まれました」
と言うのは、店主の山田善信氏(45)。
「天ぷら職人の多くは、天ぷら屋で修行した後に独立するものですが、私の場合は好きが高じて和食の料理人から転身し、2009年に店を開きました。銀座は約40軒の天ぷら屋がある激戦区なので、昔ながらの江戸前に和食の技術を加えた独自のスタイルを追求しています」
1万8360円のおまかせコースを注文すると、最初に登場したのは、ふぐと水菜と白菜のおひたしをのせた「白子の茶碗蒸し」。和食の心得があるだけに先付からして味わい深く、期待が高まる。
天ぷらの1品目は王道の海老で、カラリとした薄い衣に南仏産の「カマルグの塩」をつけると、海老のほのかな甘味が引き立つ。
「お客さまが胃もたれしないよう、胡麻油と綿実油を使って、衣は白く軽い仕上がりに揚げています。カマルグの塩はパリでも使っていたのですが、甘味と苦味に、コクもあるので、素材が引き立つんですよ」
これに、和食の技術が活きる、かつお節をかけた鹿児島産のタケノコ、春子鯛の昆布〆、ウニの大葉巻の3品が続く。
タケノコは天つゆにつけると、土佐煮を思わせる風味とシャキッとした食感が楽しめる。春子鯛の昆布〆は鯛の旨みが濃厚で、昆布で締めることで旨味を凝縮しているという。ホクホクのウニは、大葉の爽やかな香りの余韻がいい。
そして次は、いよいよ名物のアワビである。脇に添えられた小皿からキャビアをちょこっと摘まんで、アワビにのせる。それを箸で持ち上げると、揚げて水分が抜けたのだろう。驚くほど軽い。いざ口へ運ぶと、表面に細かい隠し包丁を入れているため、歯切れがいい。味の方は、キャビアの塩気でアワビの芳醇な風味が膨らみ、抜群の相性である。
「粗塩でも美味しいのですが、キャビアの方がよりアワビの旨味が引き立つんです。パリにいた頃に相性の良さを知り、店を出す際に名物として考案しました。お客様にもご好評いただいております」
この一品をいただいただけでも店に来た甲斐があったが、コースは続く。
後半は蕗の薹、牡蠣、丸十(さつまいも)、シイタケの海老詰め、レンコン、穴子で、締めは炊きたての土鍋ご飯で作る「天茶」、「天バラ」、「天丼」から選ぶ趣向だ。
今日もカウンター10席のみの店内は、山田氏の独自スタイルを求める客で賑わっていた。
©MEGUMI KOMATSU
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