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江戸前晋作(本郷三丁目)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2019年2月21日
  • 読了時間: 3分

東京都文京区本郷4-2-4 加藤ビル1F ☎03-5615-8728

営業時間:18:30~21:30(18:30一斉スタート)

定休日:日曜日、祝日 コース予算:ランチ¥6,400〜(税別) 要予約



メゴチやイカは熟成させて使用

独自の仕込みが冴える天ぷら店


 東京・本郷三丁目の交差点付近に、熟成肉ならぬ熟成魚を揚げる天ぷら屋がある。店は大通りに面しているが、

「昨年ミシュランの一ツ星を獲るまで近所では認知されていませんでした。何屋か分かりにくいですからね」

と店主の西村晋作氏が言う通り、入口は謎めいた雰囲気。天ぷら屋だということを示すヒントは唯一、店名の「江戸前」だ。ひと昔前なら東京湾で獲れた魚介を使うのが江戸前の流儀だったが、西村氏は

「仕込みや火入れにとことん向き合う姿勢を江戸前の仕事のあり方と捉え、その粋な精神を大切にしている」

とのこと。

 店内はカウンター6席のみで、コースは18時半からの一斉スタート。品数はコースによって異なるが、前菜と車海老の天ぷらに続いて熟成させた魚が揚げられ、鮪茶漬け、葛餅で締める流れは共通だ。

 7500円(税別)以上のコースでは、まず揚げ方を変えた車海老が2本登場。1本目は“中心まで火が通ったその瞬間”の状態だが、2本目は中心部にほんのりレアな食感を残した状態。美味しさだけでなく、その技の正確さにも驚かずにいられない。

「車海老は2本目の方をより高温で揚げています。1本目と2本目は、実は大きさも形も違うんですよ」

 カウンター越しに一部始終を見ていても気づかないほど、繊細な仕事だ。

 次に出される車海老のカブト2個は、サクッと香ばしく、旨味たっぷり。その後に続くキス、スミイカ、メゴチは、それぞれ5日、6日、5日熟成させたもの。だが衣をつける前の天種の見た目は新鮮で、匂いも皆無だ。スミイカは西村氏が手を逆さまにしても落ちず、手に貼り付いている。

「スミイカは熟成によってアミノ酸が出ているため、手に貼り付くんです。魚を寝かせるのに最適な期間は個体ごとに異なるため、大切なのはどれだけタンパク質が分解され、水分が抜けたかを見極めること。水分が抜けすぎると魚の持つ複雑味が抜け、最終的にはどの魚も同じ味になってしまうんです」

 一般的な魚の天ぷらと比べると、熟成させたキスは旨味に凝縮感があり、スミイカは余韻が長い。メゴチは、噛んだ瞬間に干物のような旨味が感じられた。

「寝かせたメゴチは、じっくり揚げることでさらに脱水され、加熱によってアミノ酸と糖が結びつくメイラード反応が起きて香ばしくなります。この揚げ方は、尊敬する『みかわ是山居』の早乙女哲哉氏の、極限まで水分を抜く揚げ方をヒントにして考えました」

 揚げ油に綿実油と太香胡麻油を使うのも『みかわ是山居』譲りだが、胡麻油の配合率はやや控えめ。〆は、クロマグロの酸味と煎茶で天ぷらの油が切れる「鮪のゴマだれ茶漬け」。さっぱりとした粋な締めくくり方も江戸前らしい。



©MEGUMI KOMATSU


次回は「週刊新潮」9号にて、「オステリア デッロ スクード」の記事をお届けします



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