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天冨良よこ田(麻布十番)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年6月11日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月18日

東京都港区元麻布3-11-3 パティオ麻布十番Ⅱ3F    ☎03-3408-4238

営業時間 17:30〜20:30LO    定休日:水曜 コース予算:¥10,800 カード不可

*2016年「週刊新潮」40号掲載



タネを揚げずに、衣を揚げる

天ぷら名人の極意


 店主の横田恒夫氏(66)は、名店「銀座天一」で修業したその昔、25歳の若さで本店のメインカウンターを任され、30歳で麻布十番に店を構えた天ぷら名人。 

店内には油臭さなどない代わりに、「天一」譲りの「カレー塩」のスパイシーな香りがふわりと漂い、食欲をそそる。

コースは魚と野菜が6種ずつ出る1万800円のおまかせ1種類。付き出しのサラダが運ばれると、

「小皿にレモンを搾ったら、塩を山盛り3杯、天つゆにはおろしを入れて下さいね」

 と、説明が始まる。カレー塩、レモン塩、塩、天つゆの4種は、どれを使えばいいかその都度横田氏が教えてくれるが、たとえば中心を半生に揚げた「エビ」「イカ」「貝柱」などは、塩やレモン塩がお薦めだ。中心部を箸1本分レアに揚げたエビは、塩によって引き立つ甘味が繊細。殻から剥きたての分厚い帆立の天ぷらは、繊維がしっとりとほぐれ、湯気と共に甘み、旨みが広がる。

「タネの旨みを味わうのは、塩やレモン塩がいいですよ。天つゆをあまりお勧めしないのは、衣がふやけてサクッとした食感が損なわれてしまうからです。衣がふやけると、お腹にたまるのが早くなりますしね。天つゆと大根おろしは、お口直しにつまんでください」 

 ふっくらしたメゴチは、その香ばしさがカレー塩によって益々引き立つ。カラリと揚がった尻尾は、骨せんべいのような美味しさだ。

「火が通るのは5〜6秒ですが、この魚は臭みが抜けるよう、香ばしくなるまで揚げます。メゴチは表面のぬめりが多いのですが、ぬめりがあると衣を弾いてしまうので、塩で洗って揉み出すことを3、4回繰り返すんですよ。メゴチとキスと穴子は江戸前の天ぷらには不可欠なので、1年中必ず用意しています」

 定番のキスは、衣はサクッとしていても身はしっとり。素材の特性を見極め、秒単位で揚げる時間を調整する職人技が光る。

「大切なのは、油の中で素材に上手に火を通すこと。タネを揚げずに、衣を揚げるんです。衣は極力薄くし、火と油の力で脱水します」

 衣の美味しさも見事なのは、豪快な「穴子の1本揚げ」。15㌢以上にわたって薄く均一についたサクサクの衣が楽しめるのだ。

「衣を薄くつけるコツは、衣を作る時に冷水と卵と粉をよくかき混ぜること。普通は箸でサッと混ぜるだけですが、私はホイッパーで混ぜるので濃度が圴一になり、素材の表面に薄い衣がきちっとつくんです」

 何もつけずに味わうと、穴子のコクのある旨みに驚く。最後は小エビのかき揚げを「天茶」または「天丼」で味わう趣向だ。「天茶」は、香ばしいかき揚げをばらして混ぜると、煎茶の中にかき揚げの出汁が染みて絶妙。油切れの良い天ぷらは、食後に全く油の重さを残さないのであった。


©MEGUMI KOMATSU

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