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天茂(赤坂)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年4月5日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月23日

東京都港区赤坂3-6-10 第3セイコービル2F  ☎︎03-3584-3746

営業時間 11:30~14:00、18:30~20:30LO  

予算:(昼)かきあげ丼¥1,300 (夜)天ぷらコース¥7,560  定休日:土曜、日曜、祝日

*2015年「週刊新潮」21号掲載



名店「天茂」を父から継いだ女主人


 東京・赤坂で創業して50年、父から娘へと受け継がれた天ぷらの名店「天茂(てんしげ)」は、今日も馴染みの客で賑わっている。

 12席のコの字型カウンターの中央、天井に角竹を配した揚げ場に立つのは、2代目店主の高畑粧由里さん(50)だ。

「私の代になって20年になります。もともと教員をしていたのですが、30歳の時に父が病気になり、店を手伝うようになりました。その際、お客さまから『店をなくすのはもったいない』と言われ、頑張ってみようと思ったんですよ」

 初代の倉茂富夫氏から教わった技の数々は、おまかせの天ぷらコース(7560円)に活きる。最初は海老2本。カラリと揚がっていながら、海老はしっとり柔らかい。

「父の教えで、生の状態をマッチ棒1本ほど残すようなイメージで油から引き上げています。こうすると、召し上がるときには予熱で芯まで火が通るのです。油は父が考えた配合で、ごま油に綿実油を加え、カラリと揚がるようにしています」

 次は、大きな椎茸の傘に、たたいた海老を詰めたもの。懐紙の上の椎茸を小刀で半分に切ってくれたのは、接客サービス担当の母上・倉重和子さんだ。

「半分は塩で、半分は天つゆで召し上がってみてくださいね」

 と、何だか親戚のおばさんのように、優しい口調で勧めてくれる。塩なら椎茸と海老の旨味が引き立ち、天つゆなら椎茸のジューシーさが活き、どちらも大変結構である。

 続いて登場した鱚は分厚く、ふわりと柔らかな口当たり。鱚は開いて揚げるのが普通だが、閉じて揚げているからだろうか。厚みが増し、淡泊な味ながら旨味がしっかりと感じられる。

「そうなんです。手伝いを始めたばかりの頃は鱚をおろすこともままならず、うっかり骨まで切ってしまうことがありました。それで父に『閉じて揚げなさい』と言われてやってみたところ、意外と評判が良かったので、こうしています」

 4〜6品目は初夏の食材が続いた。筍の一種である淡竹のサクサクの歯応え、稚鮎のワタの香りを楽しむと、次はアスパラガス。今度は高畑さんがカウンターから身を乗り出し、3つに切り分けてくれた。揚げたては火傷しそうなほど熱いが、香りと歯応えが良い。

 7品目は自慢の穴子で、1本丸ごと揚げたものを3等分に切ると、

「真ん中は最もふっくらしていて美味しいので、天つゆではなく、塩とレモンでどうぞ」

 と、高畑さん。その通りにいただくと、なるほど、しっとりと柔らかい素材の味が活きる。

 締めの一品は天茶または天丼で、今回は後者を選んだ。ご飯の上にのった小海老と小柱のかき揚げはふんわりして、お茶には出汁のような旨味がある。

「昆布茶を煎茶で割るのが、父の代からのこだわり。海老はかたくなりやすいので、かき揚げの中央に箸で穴を開け、短時間で揚げるようにしています。基本的に父の味を継承するように努めていますが、職人気質の父は怖がられる部分もあったので、私は親しみやすい対応を心がけています」 

 女主人ならではのソフトな接客が、また違う常連客を呼んでいる。


©MEGUMI KOMATSU

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