御料理 辻(麻布十番)
- 小松めぐみ
- 2018年7月26日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月25日
東京都港区東麻布3-3-9 アネックス麻布十番B1 ☎03-6459-1550
営業時間 11:30〜14:00、18:00〜23:00 定休日:日曜、祝日
コース予算:昼¥8,000、夜¥15,000(共に税別)
https://oryouritsuji.jp
*2017年11月16日発売「週刊新潮」45号掲載

晩秋の裏テーマは“キノコ”
旬の盛りの味を活かす日本料理店
東京・東麻布の住宅街に2017年6月下旬にオープンした日本料理店「御料理辻」は、営業中だけ店先へ出す行灯が目印。店内はカウンター6席と個室2室。地下にありながら、個室の窓外には庭の緑が広がる。その眺めが気に入ってここを選んだと言う店主の辻佳明氏(34)は、名店「東京吉兆」「松下」(現在閉店)、「青草窠(せいそうか)」「太月(たげつ9」で修業した御仁。聚落壁と名栗天井に囲まれたカウンター席に着けば、凛とした茶花が視界に入り、自ずと期待に胸が膨らむ。
コース(1万5000円、税別)はおまかせで全12品。内容は3週間ごとに変わるが、中盤にお凌ぎの手打ち蕎麦が供され、肉を使った強肴、炊き込みご飯、手づくりの甘味、水菓子で締める構成が基本となる。
11月上旬は旬の甘海老と江戸前カマス、蓮根、菊花を柑橘出汁で和えた先付に始まり、次に豊後水道の鯛と会津産の天然金茸のお椀が登場。香り高い吸地は椀種をひと口味わうごとに味の奥行きが増し、飲み終える頃に至福を感じる案配。聞けば、辻氏、「太月」では煮方を任されていたとか。
3品目のお造りは、北海道余市のブリとアンキモ、千葉県富津(ふっつ)のヒガンフグ。ブリの脂は大トロ級だがさっぱりとキレがよく、濃厚なコクのあるアンキモも、厚めに引いて霜降りにしたヒガンフグも、極上品だ。
「なるべく少ない工程で旬の最盛期の味を生かすようにしていますので、魚は築地の最上級品を扱う業者から仕入れています」
豪華な食材を枯淡な骨董の器で引き立てるのも、辻氏の得意技。器のほとんどは、貴重な時代物だ。
「器は江戸時代から大正時代の骨董や、昭和の物故作家の器を中心に使っています。骨董ばかりだと地味になりがちなので、花や動物などのかわいらしい意匠のものを選んで集めています」
柚子風味の上品なイカの塩辛や〆サバの藁燻しなど7品を盛り合わせた八寸を挟み、5品目は手打ちの二八蕎麦。一番出汁にサバ節を加えた冷たいかけつゆは、具材のキノコの旨みがよく合って、無意識に飲み干してしまう。
「このキノコは会津産アミタケです。昔『太月』に勤めていた頃にキノコ狩りに行っていたこともあり、私の秋の料理は天然キノコが裏テーマなんですよ」
後半でも山口県萩の甘鯛の唐揚げとカブ、銀杏、“会津産ムキタケ”の炊き合わせ、和牛と“松茸”のしゃぶしゃぶなど、キノコが活躍。10品目の「壱岐の焼穴子とささがき牛蒡の炊き込みご飯」のお供の赤出汁の具は“天然なめこ”だ。
「でもキノコもそろそろ終わり。冬は海老芋や堀川牛蒡などの根菜を活かします」
選り抜きの旬の野菜が脇を固めるコースの、重層的な季節感が味わい深い。

©MEGUMI KOMATSU
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