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懐石大原(四谷三丁目)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年4月23日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月25日

東京都新宿区荒木町1 中林ビル2F   ☎︎03-6380-5223

営業時間12:00~13:00LO(水・土のみ)、18:00~20:00LO 定休日:日曜、祝日 

予算:昼¥7,560〜、夜¥10,800    http://www.sugidaimon.com/oohara.html

*2015年「週刊新潮」42号掲載



冬の高級魚、甘鯛の美味


 京都では「グジ」、静岡では「興津鯛」と呼ばれる甘鯛は、美食家の徳川家康が好んだことでも知られる冬の高級魚。もともとは関西で好まれていたが、最近は東京でも使われるようになってきた。中でも比較的手頃な価格で洒落た料理を楽しめるのが、東京・荒木町の「懐石大原」である。

「甘鯛は、21歳の時から12年間修業させていただいた店の親方がよく使っていたのです」 

 そう語るのは、ご主人の大原誠氏(39)。

「京都の名店『辻留』の東京店で修業した方だったので、関西の素材使いを受け継いでいたのです。甘鯛は独特の甘味がおいしい魚なので、毎年、松茸の旬が終わって甘鯛が美味しくなる10月になると、私も使いたくなるんですよ」

 だが、その美味しさを料理に活かすには、買う時の目利きが大事だという。

「餌の海藻の種類によっては、ツンと鼻をさす臭みを持っていることがあるのです。そのため、じっくり選んで買わないとならないのですが、高級魚なので、魚屋さんはなかなか触らせてくれません。ですから、触らせてくれる店に甘鯛が入荷した時しか使えない。本日は山口県の赤甘鯛が入ったので、お椀にしてお出しします」

 そんな説明を経て、1万800円のおまかせコースがスタートした。

 1品目は「黒枝豆豆腐」で、薄緑色の豆腐に紅葉形の人参の赤が映え、美しさに期待が高まる一品だ。続いて、1品目の「鯛と平目のお造り」を挟んで「甘鯛のお椀」(写真)が登場した。

「甘鯛と根三つ葉、丹波しめじ、銀杏のすり流しのお椀です。吸地は、銀杏をすり鉢で擦って、鰹と昆布の出汁に流し入れたものです」

 蓋を取ると、黄柚子の香りがふわりと漂い、一風変わった薄黄色の吸地が目に入る。味わえば、銀杏特有のほのかな苦味と甘鯛の甘味が、絶妙な相性だ。それぞれの個性的な味わいを、出汁の淡い旨味がしっかりと受け止めているからだろうか、斬新なのにホッとする。聞けば、出汁は客の来店時刻に合わせてひいているという。

「出汁は店の命。ひきたての豊かな香りがあるからこそ、椀種の旨味が引き立つのです」

 4品目は「柿の白和え」や「イクラの醤油漬け」などを盛り合わせた端正な八寸で、5品目には焼魚が登場した。お椀に甘鯛を使う時の焼魚は通常、旬の真魚鰹の漬け焼きだが、この日は特別に甘鯛の漬け焼きも食べ比べさせてもらった。焼いた甘鯛は独特の甘味とコクが一層際立つ。

「真魚鰹も甘鯛も、濃口醤油と酒とみりんのタレに漬けて、タレを乾かしながら焼き上げるのですが、甘鯛は身そのものが甘いので、タレのみりんの量を控えめにしました」

 終盤は、「ニシンと茄子と海老芋の炊き合わせ」を挟んで、名残の「松茸ご飯」と、「甘鯛の潮汁」。潮汁も濃厚ながら品がよく、味わい深い。

 天下人が好んだのも頷ける美味である。



©MEGUMI KOMATSU

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