懐石小室(神楽坂)
- 小松めぐみ
- 2018年8月12日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月22日
東京都新宿区若宮町35-4
☎03-3235-3332
営業時間 12:00〜13:00LO、18:00〜20:00LO 定休日:日曜日
コース予算:昼食¥15,000〜、夕食¥22,000~(共に税別)
https://www.kaiseki-komuro.com
*2018年6月14日発売「週刊新潮」23号掲載

当代随一の鱧料理に出合える
風雅な数寄屋造りの懐石料理店
東京で鱧を楽しむなら、神楽坂「懐石小室」の右に出る店はないだろう。店主の小室光博氏(52)が使う鱧は、ほとんどここでしかお目にかかれない希少な最上級品。小室氏いわく、
「瀬戸内海の中でも1日3組の漁師しか漁に出られないほどの狭い水域で獲れる鱧なので、獲れる量も極わずか。昔は殿様やお公家様の口にしか入らなかったそうです。私がこのような食材を使えるのは、修業先の『和幸』(閉店)の故高橋一郎師匠のおかげです」
小室氏の師匠の高橋氏は京都の名店『辻留』が1954年に東京出店した際に一番弟子として入った人物ゆえ、希少な食材が手に入るようになったという。
そんな鱧を生かした料理が豊富に盛り込まれる夏の懐石コースは3万5000円〜(税別)。季節感溢れる先付と八寸に続いて登場する最初の鱧料理は、「鱧の棒寿司」だ。小室氏の器好きは知る人ぞ知るところだが、棒寿司が盛られた染付の器は扇型が晴れやかな趣。
「こちらは京焼の作家、澤村陶哉作です。2月に移転したばかりですので、景気よく末広形の器を使わせていただきました」

坪庭を望む10席のカウンターは、新しい檜が眩しいほど。だが、4品目のお椀はさらに眩しく、蓋の裏に施された紫陽花の蒔絵は、目を奪われる美しさだ。香り豊かな吸地と椀種の鱧を味わえば、豊かな滋味に早くも至福。椀づまにもジュンサイや希少な松露があしらわれ、至極贅沢である。
5品目の「活け牡丹海老のお造り」を挟むと、次の3品は鱧料理。6品目は尾の身と頬のお造りで、尾の方は薄い硬貨程の大きさながらしっかり旨味があり、弾けるような皮も乙な味わい。
「尾や頬は普通あまり使いませんが、佳い鱧だったのでお造りにしております」
と聞けば、期待は膨らむばかり。7品目の焼き霜造りは、塩や酢橘、ワサビを付けて味わう趣向で、鱧の脂の旨みは想像以上。炭で焼いた皮目の香ばしさと、半生の柔らかな食感もご馳走だ。この一品も8品目の湯引きも、骨の存在をほぼ感じないことに驚くが、すると小室氏が教えてくれた。
「脂がのった美味しい鱧というのは、そもそも骨が柔らかいんです。あと2週間もするとさらに脂がのった100点の鱧が届きますので、その節にはタレ焼きでもお出しします」
6月中旬にタレ焼きに用いられたのは天然鰻だが、同時に出された肝焼きは鱧の肝を焼いたもの。鰻よりも大きな肝には苦みがなく、濃厚なコクが広がる。
コースの終盤は「ゴマフグの焼き白子」「賀茂茄子と和牛のしゃぶしゃぶ」「鱧ご飯」、そしてデザートと抹茶。堪能した鱧の量は、1人1本(500〜600㌘)に及ぶ。
上機嫌で玄関を出れば、若い衆が通りに出るまでの露地を行灯で照らしつつ送ってくれ、まさに殿様気分。
©MEGUMI KOMATSU
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