手打ち蕎麦 汐見(早稲田)
- 小松めぐみ
- 2018年7月8日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月25日
東京都新宿区早稲田鶴巻町556 松下ビル1F
☎03-3202-4404
営業時間11:30〜14:30LO、18:00〜20:30LO
定休日:水曜、第3火曜
予算:昼¥1,350〜、夜¥3,500〜(税別)
http://sobashiomi.com/index.html
*2017年4月13日発売「週刊新潮」16号掲載

若き主人の感性で
日本料理店と蕎麦屋の魅力が合体
場所は早稲田の早大通り。かつてここで食通を魅了した日本料理店「松下」の跡地にて、弟子の汐見健氏(32)が2015年6月に独立開業した。
その店、「手打ち蕎麦汐見」の暖簾をくぐれば、廊下沿いに半個室が現れ、さらに奥は白木のカウンター8席とテーブル10席。店内はカップルや家族連れなど様々な客で賑わうが、皆ほぼ料理人より年上だ。学生街であっても、客層は大人。唎酒師の店主が選ぶ日本酒が25種類以上揃う上、コース料理は3500円(税別)からとお手頃価格ゆえ、連日盛況だ。
一番人気の5500円のコースは、先付から甘味まで約10品。最初の「季節のすり流し」は全コース共通で、4月はじゃがいもを使ったやさしい味わいだ。
「まずはすり流しで一息ついて頂くべく、寒い時は温かいもの、暑い時は冷たいものをお出ししています」
胃が温まって食欲が湧いたところへ、前菜の盛り合わせが登場。春から初夏の定番「初鰹のスモーク」は、「松下」譲りの一品で、さっぱりした初鰹の旨味が凝縮している。
「鰹はスモークすることで血なまぐささを消し、旨味を引き出しています。他の季節には蛍烏賊、鯖、鯵、牡蠣、大豆、鴨などのスモークもご提供しています」
盛り合わせの中には「筍田楽」「鯛の煮こごり」などの正統派の料理に混じって「イナダの生ハム」のような創作料理もあり、現代的なセンスが楽しい。
「『松下』では日本料理の枠にとらわれず、オムライス等のお客様が食べたいものもコースに組み込んでいました。それに倣って、私も日本料理に固執しすぎないようにしているんです」
そんな汐見氏の創作料理の代表作が、「蕎麦がき椀」。
輪島塗のお椀の吸地の中には大蛤や蕨と共にかき立ての蕎麦がきが盛られ、蕎麦がきとお椀の滋味を同時に楽しめる趣向となっている。
「真丈の代わりに蕎麦がきを使ってみました」
柔軟な発想に驚くのは、「お造り」と「焼物」を挟んで登場する「トリ貝と赤貝の酢の物」も然り。酢の物に添えられたキウイフルーツのソースの甘酸っぱさが、貝と意外に好相性だ。
次は選手交代で、女性料理人による天ぷらの段。天ぷら専門店とは比べられないが、揚げたての海老、こごみ、長なす、蓮根、稚鮎を1品ずつ楽しめば、贅沢気分ひとしお。
お好みでせいろ又はかけを選べる「手打ち蕎麦」は、つなぎ不使用の十割ながら、喉越しがよくしなやか。群馬県産の無農薬栽培の蕎麦の実を毎朝石臼で自家製粉していると聞けば苦労がしのばれるが、
「蕎麦は打ったその日しか美味しさがもちませんから。大変ということはなく、それが楽しいんです」
と、潔くも爽やか。食後は手作り甘味が出て、至れり尽くせりだ。それにしても甘味を作る女性料理人が独学だと聞けば驚くばかり。
「社員の特性を見て担当させております」
若き料理人の溢れる意欲も、店に華を添えている。

©MEGUMI KOMATSU
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