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新ばし 鮎正(新橋)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年7月1日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月22日

東京都港区新橋4-21-14  

☎03-3431-7448  

営業時間 17:00 ~22:00(土~21:00) 

定休日:日曜、祝日(7月海の日は営業)、第2・第4土曜(11〜5月)

平均予算:夜¥15,000(あんこう鍋は単品¥6,000)  

http://ayumasa.main.jp

*2017年2月2日発売「週刊新潮」6号掲載



上品な出汁にあん肝と味噌を溶かした

冬の名物「あんこう鍋」の気品


 1963年に東京・新橋で創業し、かつて小林秀雄や水上勉も通った「鮎正」の本家は、高津川の天然鮎の料理を看板とする島根県日原の割烹「美加登家(みかどや)」。この店の名物も6月からの天然鮎料理だが、11月から3月末までの「あんこう鍋」も見逃せない逸品だ。

「お客様のリクエストで始めたのは約20年前です」

 と微笑む店主の山根恒貴氏(67)は、昭和のスター料理人、西村元三朗氏の薫陶を受けた御仁。削りたての鰹節を取り寄せてその日のうちに使い切るなど、見えない仕事にも妥協を許さぬ山根氏が考案したあんこう鍋は、出汁の気品を感じさせる白味噌仕立てだ。

「あんこう鍋にも色々ありますが、主流は茨城県の郷土料理の『どぶ汁』か醤油味仕立て。でもそれをウチで出しても仕方がないので、私は削りたてのメジ節(鮪節)と血合い抜きの鰹節でとった出汁に仙台味噌と白味噌、自家製のあん肝ペーストを溶かした鍋地を作りました。鍋の値段(単品6000円)の半分以上はあん肝代です」

 あんこうは1匹5〜6㌔の青森産を活けで仕入れるが、その肝臓だけでは足りないため、山口産や島根産のあんこうの肝臓もあん肝用に仕入れているとか。

「肝に含まれる脂の量には個体差があるので、その都度味見して、美味しいと思える量を鍋にたっぷり溶かし込みます。青森産の活あんこうの方の肝臓は捌いてみて大きかった時だけ蒸しますが、鍋には溶かさず、あん肝ポン酢としてお出しします。1日経つと酸化してクセが出るので、蒸した当日しか出さないんですよ」

「あんこう鍋入りの会席コース」(税別1万3000円/2名より)では、鍋の前にお造りや島根産浜田ガレイの一夜干し、白子の天ぷらなど5品が出されるが、青森産のあん肝ポン酢も登場したらその日はラッキー。分厚いあん肝はふわりと柔らかく、深いコクがあり、蒸したてゆえにさっぱりとして箸が止まらない。

「肝臓の血の成分は臭みになりますので、血管をたぐりながら取り除いています。あんこうは新鮮でも臭みがある魚なので、身や皮なども独自の方法で部位ごとに丁寧に下処理しています」

 と言う通り、鍋の具材の「七つ道具」、すなわち身、皮、肝、エラ、ヒレ、胃、卵巣も臭みは皆無。ゼラチン質が豊富な皮、エラ、ヒレの食感や、あっさりした身の旨味など、それぞれの魅力に没頭できる。

「背骨も食べられますのでどうぞ」

 太い骨は抵抗なく噛み切れる柔らかさだが、サックリした不思議な食感。肝の濃厚さと白味噌の優雅な香りが相まった出汁は滋味深く、〆の雑炊への期待も高まる。しかし雑炊は鍋に残った汁で作るのではなく、新たな出汁に肝と味噌を溶かして使うのが鮎正流だ。

「鍋に残った汁にご飯を入れるとしつこくなるのです」

 というのは、料理は出汁によって美味しくも不味くもなると考え、出汁を重視するからこそ。まろやかで凛とした雑炊の味には、山根氏の美学が貫かれている。


©MEGUMI KOMATSU

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