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有いち(荻窪)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年7月18日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月23日

東京都杉並区上荻1-6-10  

☎03-3392-4578  

営業時間17:30〜22:00LO

定休日:日曜 予算:¥7,900〜(税別)

*2017年9月20日発売「週刊新潮」37号掲載



地元密着型の気取らぬ割烹で

土瓶蒸しや秋刀魚ご飯を満喫


 荻窪駅北口のロータリーに面した「有いち」の暖簾は、どこかレトロで気取らぬ雰囲気。扉を開ければ、店主の橘光太郎氏(38)が立つ6席のカウンターと、竹の腰板を張り巡らせた土壁際のテーブル席が現れる。開業したのは、橘氏が弱冠28歳の時。当時は白木だった杉のカウンターも飴色になり、来月で10周年だ。

「内装はお金がなくて自分で工事したんですが、素材は全て天然です。修業先の人形町『きく家本店』の親方に『本物を使いなさい』と教わりまして」

 ふと見上げれば、天井は上質な和紙。ぬくもり溢れる空間で耳を澄ませば、低く流れる小唄のBGMに気持ちが緩む。

「『きく家本店』の親方と女将は三味線の名取でしたので、私は包丁を持つ前に三味線のお稽古をさせてもらっていたんです。こうした経験が料理に影響している部分もあるかと思います」

 人気の7900円(税別)のコースは、甘味を含め約11品。定番のお通し「しじみ汁」で温まり、「新芹ときのこのお浸し」を楽しめば、秋の里山の風が脳内にそよぐようだ。

 3品目は季節の素材で作る寄せ豆腐で、9月は旬の生落花生を砕いて葛で寄せた「ピーナッツ豆腐」。朝鮮唐津の器に映える乳白色の豆腐は、落花生のコクとなめらかさが魅力的だ。

 燻し銀のような渋さの前菜と一転して豪華なお造りは、五島列島のクエ、京都府舞鶴の鯖、三重県鳥羽の釣り鯵、福岡県の白いかの盛り合わせ。どれも名産地の上物である。

「最近は同世代の築地の仲買人が、いい魚が入ると夜中に携帯に魚の写真を送ってくれるので、それを押さえるんです。私の携帯は魚の写真だらけですよ(笑)」

 一方、「野菜の炊き合わせ」は、開業時からの自慢の一品。蓮根、南瓜、茄子、トマト、露地物のみょうがなど、10種の野菜は、それぞれの香りや歯応えを生かして炊かれている。

「10年前は今ほど良い魚を使えなかったので、その分野菜は種類を揃えるようにしました。荻窪は都心と違って接待需要があるわけではありませんので、1万円ぐらいの予算の中でいかに美味しいものを提供できるかを考えています」

 それにしても八寸は見事だ。豆皿に盛られた料理は、鯖寿司や自家製の唐墨、芋茎(ずいき)の胡麻和え、それに「畳鰯のもろこし真丈挟み揚げと天然鰻の骨煎餅、丹波の黒豆の吹き寄せ」のような凝った品も含めて9点。 

「最初は大変でしたが、お客様が喜んで下さるんでね」

 コースの後半では、「鱧と松茸の土瓶蒸し」で脂ののった鱧と松茸の香気、澄んだ出汁を堪能。「のどぐろの炭火焼」を挟んで、秋刀魚の炊き込みご飯を味わい、喉越しのよい手打ちそばを手繰れば、至福の境地だ。  

 三味線の調べのようにしっとりと描写される秋の風情に、思わずうっとり。


©MEGUMI KOMATSU

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