東京チャイニーズ 一凛(築地)
- 小松めぐみ
- 2018年7月25日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月23日
東京都中央区築地1-5-8 樋泉ビル1F
☎03-3542-6663(予約受付14:30〜17:00 )
営業時間:11:30〜14:00LO、17:30〜22:00LO
定休日:日曜、祝日、第1・第3月曜
予算:昼¥1,300(税込)、夜コース¥6,000〜(税別)http://www.whaves.co.jp/ichirin/
*2017年11月9日発売「週刊新潮」44号掲載

素材のよさが光る「よだれ鶏」と
「白子の麻婆豆腐」をコースで
30代の料理人たちがカウンター前の厨房に立つ店内は、ナチュラルモダンなビストロのよう。一般的な中華と趣が異なるのは料理も同じで、献立は和食のように旬の食材ありきだ。
「晩秋から冬にかけては、上海蟹の料理と『白子の麻婆豆腐』が名物です」
と説明するのは、名店「四川飯店」出身の齋藤宏文総料理長(41)。齋藤氏は2017年4月に開業した鎌倉の姉妹店が本拠だが、弟子の大胡晴雄料理長(36)によって、本店でも齋藤氏監修の絶品メニューが味わえる。
客の8割方が注文する「本日のおまかせコース」は3種類あり、おすすめは「上海蟹の紹興酒漬け(半身)」が付く8000円(税別、以下同)のコース。これを注文すると最初に登場する上海蟹は、なめらかな透明感のある蟹肉に紹興酒ダレが染みて香り高く、内子は濃厚でなめらかな口当たり。雌の上海蟹を2週間漬けているそうで、大胡氏いわく、
「これ以上長く漬けると卵が溶けてしまうんです」
お酒は中国各地の地酒が豊富で、「本日のおすすめ中国酒3種飲み比べ」(980円)では異なる産地の黄酒(地酒)を楽しめる趣向。たとえば上海の「石庫門」(12年)は比較的甘味と酸味が強く、陝西省の「銀朱鷲黒米酒」(通称ヘイミー)はまろやかな味わいで、上海蟹には紹興の「黄中皇」(5年)が最もよく合う。聞けば、上海蟹を漬けているのも「黄中皇」の3年物だというから、道理で納得。
2品目の「よだれ鶏」は2013年の開業時からの名物で、上質な鶏肉をしっとりと蒸し上げ、その上にコクのあるレバーパテを乗せるのが特徴だ。
「当店が使っている兵庫県丹波の“髙坂地鶏”は丁寧に飼育された健康な鶏ですので、内臓も美味です。レバーパテを作ったのは、その内臓の美味しさを楽しんでいただくため。自家製辣油と黒酢、醤油を合わせた辛いタレで食欲を刺激し、続く料理をお楽しみいただきたいと思います」(大胡氏)
刻んだナッツや胡麻が浮かんだ真っ赤なタレは色から想像するほど激辛ではなく、爽やかなスパイシーさ。
3品目の「三陸牡蠣と銀杏の強火炒め」はミルキーな牡蠣と銀杏のほのかな苦味が好相性で、次の「北海道産仔鹿のロースの唐辛子炒め」は再び食欲が刺激されるスパイシーな一品。「大根もち」、「ズワイ蟹と卵の炒めふわふわスフレ仕立て」「台湾豆苗の炒め」は、どれも主食材の存在感が光るシンプルな味わいだ。
「美味しいものを突き詰めると、素材本来の味に行き着きました」(大胡氏)
「白子の陳麻婆豆腐」は、魚卵を好む日本人の嗜好を汲んで、数年前に齋藤氏が考案したもの。豆腐に続いて白子を味わえば、山椒と唐辛子の刺激が中和され、まろやかな味が生まれる。辛いのに、辛くない──アンビバレントな味覚がやみつきになる逸品である。
©MEGUMI KOMATSU
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