東白庵かりべ(神楽坂)
- 小松めぐみ
- 2018年4月10日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月23日
東京都新宿区若宮町11−7
☎︎03-3617-0951
営業時間: 11:30~14:30LO、18:00~22:00LO(日曜祝日11:30〜21:00LO)
コース予算:昼¥5,000〜、夜のコース¥8,500〜(前日までに要予約)
定休日:水曜 http://touhakuan.jp
*2015年「週刊新潮」28号掲載

「秋そば至上主義」に浸るなら
犬さえ見向きもしないというものが、夫婦喧嘩と夏のそばである。
そこへいくと、“夏に食べる秋そば”だとしたらどうか──。
よく知られている通り、日本各地のさまざまな品種は、6月から7月に収穫される「夏そば」と10月から11月に収穫される「秋蕎麦」に大別されるが。
そして後者にとりわけこだわるそば店が、他ならぬ東京・神楽坂の「東白庵かりべ」である。主人の苅部政一氏(39)いわく、
「秋のころ、朝晩の寒暖差が大きなところで獲れるそばは、格別に美味しい。というのも、日当たりの良い斜面で日射しをたっぷりと浴びたそあは、寒さが増すにしたがって種子に栄養をため込むからです。それが『夏そば』にはない魅力だと思います」
「そのため」
と主人は続けるのだ。
「当店では年間を通して『秋そば』を使えるよう、毎年11月に1年分を仕入れています。それを店の脇の製粉所で、10度前後で冬眠させるように保存し、毎日使う分だけ製粉して打っているのです」
苅部氏はこの店を4年前に開業する前から、じっくり時間をかけて8カ所の産地をめぐり、そばを試食した。その後も試行錯誤を重ねた結果、現在は長野県黒姫産と新潟県の塩沢産を使用している。手刈りしたうえで天日で乾燥させた黒姫産は甘味がある。その一方で塩沢産は、毎年ブレが少なく、安定しているのが特長なのだ。昨年の仕入れは両方あわせて1600㌕にのぼったという。
ところで、草むす路地の奥に佇む店は、田舎家のような侘びた風情である。茶室の露地を思わせるアプローチを抜けて扉を押すと、和洋折衷の独特の空間が現れる。壁際には個室が2室。ワインセラーには、フランス産を中心に約30種類のワインが揃う。
品書きは奇をてらわず、そば1枚からでも注文できるが、今回は8500円のコースを注文した。
1品目は、つきたての餅のようにつややかな「そば掻き」である。食感はとろけるようで、蕎麦の素朴な風味と甘味が、ふわりと広がる。
「そば掻きはそば粉をお湯で掻くだけですが、最もそば粉の味が出る料理。私たちはそば粉を試食する際、そば掻きにして味を確かめるほどです」
シンプルであるけれど、シンプルだからこそ、そばの美味しさがわかるというもの。最初からぐっと秋そばの世界に引き込まれるのだ。
これに加えて、苅部氏が修業した名店「竹やぶ」から受け継ぐ「にしんの旨煮」や「ぜんまい」も出色の出来である。
穴子と夏野菜の天ぷらなどに舌鼓を打った後、締めのそばへ。最初は田舎そばで、次は「せいろ」または「かけ」を選ぶ。ニ八の田舎も十割のせいろも、細めで喉越しがよい。ずずーっと啜る音も耳に心地よい。
この「夏の秋そば」なら、どうやら犬も尻尾を振りそうなのだ。
©MEGUMI KOMATSU
Comments