栞庵やましろ(銀座)
- 小松めぐみ
- 2018年4月3日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月25日
東京都中央区銀座5-9-19 MCビルB1F ☎︎03-3571-1333
営業時間は応相談 不定休 コース予算:昼¥16,200〜、夜¥19,440〜
*2015年「週刊新潮」18号掲載

匠の山菜料理を味える
銀座の「知る人ぞ知る店」
まるで人里離れた田舎に来たかのような静けさなのだ。6席のL字カウンターのみの小さな空間に、ご主人の包丁さばきが小気味よく響く。コトンと音を立てて出されるのは、山菜料理の盛られた器。一口味わえば野山の風景が浮かび、いつか此処が東京・銀座だなんて忘れているのだった。
4丁目交差点の程近くに店を構える「栞庵(しおりあん)やましろ」は、完全予約制で1日限定2~3組を受け付ける、知る人ぞ知る店。京都の日本料理店での修行を経て3年前に独立したご主人の山城和彦氏(34)が、1人で切り盛りしている。
「7~10品のおまかせコースをお出ししているのですが、ご来店が2回目以上のお客様で事前に食べたい食材のご希望がある場合には、ご相談に応じているんですよ。お客様あっての店ですからね」
今回は山城氏の得意とする山菜料理をリクエストしていたところ、
「山菜って独特な苦味があるから、揚げ物にすることが多いでしょ。確かに苦味を油分でコーティングすれば、旨みに感じられるんだけど、それだけじゃつまらない。だから今回は、敢えて揚げ物を外しました」
というから、期待が膨らむ。1品目の前菜は「タラの芽と独活の芽、コシアブラのおひたし」で、鰹の酒盗とバチコ(ナマコの卵巣を干したもの)を添えているところに、山城氏のセンスが光る。
続いて登場したのは、大きな漆盆に6種の山菜料理が盛り込まれた「八寸」。 うるいは酢の物にしてサヨリの酢〆と片栗の花と合わせ、浜防風には空豆と木の芽味噌を合わせるなど、取り合わせが洒脱だ。葉っぱが紅葉のような形をした「紅葉傘」や「ウコギ」の新芽など、珍しい山菜もある。
「山菜は苦味そのものも持ち味なので、ゆがいて胡麻や味噌、酒盗などを添えると、山菜の風味がくっきりと引き立ちます。おひたしにする際は、それぞれの山菜の風味の強弱に合わせて、出汁の濃淡を調えているんですよ」
山菜で初夏を満喫したところで、3品目からは魚の番。先ずは「旬のサワラとアコウ(キジハタ)のお造り」で、皮目を藁で炙っているサワラは口の中で脂が溶けて広がり、アコウはゼラチン質を含んだ白身の口触りがいい。
次の「アイナメ椀」を経て、6品目は「琵琶湖の稚鮎と天魚(あまご)の揚げ物」。活けのまま米粉をつけて揚げた稚鮎のワタは苦甘く、天魚は脂がのって旨味が溢れる。続く「筍と白甘鯛と花山椒の炊き合わせ」をいただいたら、いよいよ〆だ。
登場したのは筍ご飯に味噌汁、そして「山椒を散らした鰻の蒲焼き」。蒸さずに蒲焼きにした鰻は、厚さ2㌢ほどの身にたっぷりと脂がのって、ふっくらとした弾力がある。
「鰻は琵琶湖産で、1㌔以上もある大きなものが手に入った時にだけ、少しずつお出ししています」
山椒の清々しい余韻を楽しみながら、”野山”を後にした。
©MEGUMI KOMATSU
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