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津の守坂小柴(曙橋)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年7月13日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月22日

東京都新宿区荒木町15 サンシャトー四谷203  

☎03-6273-0195

営業時間 17:30~22:30LO    

不定休    

コース予算:¥8,000〜(税別)

*2017年6月15日発売「週刊新潮」24号掲載



メインはネタ箱から選ぶ鮮魚の炭火焼

初夏の白眉は2㌔超の大イサキ


 荒木町の繁華街と古い住宅街に挟まれた津の守坂(つのかみざか9は、二車線の緩やかな坂道。昨秋、その途中に小さな懐石料理店がポツンと誕生した。

「理想は飲んで食べて1万5000円以内の価格帯で、食材は妥協せず良いものを使うこと。それには家賃を抑えなければならないので、探して見つけたのがこの場所です。飲食店がひしめく荒木町の路地では埋もれてしまいますし、落ち着いた街並も気に入っています」

 そう微笑む店主の小柴武氏(37)は、都内の人気和食店2軒で料理長を務めた経歴の主。9品1万円の基本コースと、それより品数を増減した2種のコースは、どれも炭火焼がメインだ。

「学生時代のアルバイトがきっかけで炭火焼のおいしさに目覚めたのですが、若い頃は親方に勧められて懐石料理を学び、31歳まで京料理の修業を積みました。これから力を入れていきたいのは炭火焼です」

 東京出身の小柴氏の口調に時折関西弁のイントネーションが混じるのは、修業時代の親方や同僚からうつったため。もちろん料理も関西ベースで、6月は鱧を使わずにいられないと言う。

「鱧は梅雨の雨を飲んで美味しくなるといわれる食材。椀種として用いる場合は脂がのっていない方が良いので、6月はそういう鱧を仕入れてお椀にします」

 お椀の蓋を開ければ吸い口の柚子と梅が爽やかに香り、ふわりとした鱧は淡白で上品な味わい。鱧の白と茄子の翡翠色、じゅんさいの透明感が目にも涼やかだ。

「茄子は色よく仕上げるため、鍋鍋で揚げています。銅の成分と反応して緑色が鮮やかになるんですよ」

 懐石料理らしい美しさを愛でた後は、

「愛媛で揚がった2.1㌔の大イサキを1週間弱ねかせ、皮目を焼いてウニを射込みました」

 というお造りが登場。旬の大イサキは旨み豊かで、濃厚なウニの味と相まれば、余韻でお酒が飲めるほどだ。

 大イサキは6月のお勧め食材ゆえ、続いて登場する炭火焼のネタ箱にも収められている。同じ箱には他にも目移りする食材がずらり。

「定番は鰻にゴボウを射込んだ『鰻の印籠』です。本日は太刀魚、ホッキ貝、スッポンの醤油漬、金目鯛の味噌漬、黒ムツの酒盗漬、お肉は牛サーロインと鴨の醤油漬も用意しています」

 8000円のコースは魚介の中から1種を選ぶ趣向だが、1万円(税別、以下同)のコースでは肉を選ぶこともでき、1万2000円のコースでは魚介と肉を両方選ぶことができる。

 悩んだ末に注文したのは、やはりお造りで味をしめた大イサキ。食せば熱々の切身がはらりとほぐれ、炭火で凝縮された旨みと芳醇な香りが広がる。表面がバリッと焼かれた皮は、内側にモチッとした食感もある。

 さらに、炭火で焼いて揚げた若鮎、煮穴子の揚物、白甘鯛の温物を楽しみ、卵のとじ加減が絶妙な親子丼で締めれば至福。

 美味に心弾み、帰路の足どりも軽くなるのだった。


©MEGUMI KOMATSU

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