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深川 志づ香(門前仲町)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年7月11日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月22日

東京都江東区門前仲町1-4-10 スイングビル1F  

☎03-3641-6704

営業時間 18:00~22:00  

定休日:日、月、祝 

コース予算:¥6,000(税別)※カード不可

*2017年5月25日発売「週刊新潮」21号掲載



分厚い刺身で晩酌がクセになる

創業30周年の下町の名店


 梅鉢の家紋と店名を白く染め抜いた日除け暖簾は、門前仲町の路地裏をゆく人の足を止める粋な風情。

「暖簾は雨や雪で傷みますので、これで5枚目でしょうか。開業時は真っ白だった栃のカウンターも、すっかり飴色になりました」

 ご主人の静武徳(しずか たけのり/57)氏は名店「なだ万」「福田家」での修業を経て独立した昭和63年の当時を振り返り、

「『まだ若いんだからもう少し修業すればいいのに』とも言われましたが、独立してからもまだまだ修業だと思っていました」

 と言う。休日は料理の完成度を上げるため、他店を食べ歩くこともしばしば。最も初期から残る「丸茄子海老みそやき」は、そんな大将の外食経験の中から生まれた、濃厚な和風グラタンのような一皿だ。

「5〜7月が旬の丸茄子は鶏味噌と合わせるのが定石ですが、そのバリエーションとして考案した料理です。開業時は居酒屋に毛の生えたような店で、今より品数を多く揃えていたので、自然と西洋のものも使うようになったんですよ」 

 月替わりの献立の中には、ゆえに洋風の創意溢れる品もちらほら。単品は1品1000円前後で楽しめるが、ほとんどの客が注文するのは7品6000円(税別)のおまかせコースだ。

 今月の前菜「たことトマトのサラダ」は果肉感を残したタマネギのみじん切りと刻みトマト、オリーブオイルを煮だこにかけたもので、冷えたシャリシャリの野菜が体の余分な熱を除いてくれる。もっちりしたたこを噛めば、その旨みがトマトの甘酸っぱさと相まって食欲倍増。

 2品目の刺身3点盛りは、メジマグロのヅケとシマアジ、マコガレイ。大将が手際良く切り付けた刺身は大きめで口当たりがよく、各々の魚の香りが口蓋に広がり、酒を呼ぶ。

「分厚い刺身は下品な感じがるので修業先でやったら怒られたと思いますが、今は自分がうまいと思う大きさに切っています。築地には毎日行ってますよ」 

 毎日刺身で晩酌しているという大将らしい言葉だ。3品目のしっとり焼かれた「ハタハタ一夜干し」ではさらにお酒が進むが、次の「白アスパラ玉子とじ」は煮物とお椀の中間的な一品。具材の蟹のエキスが染みた出汁で一旦リセットし、再び「白魚天ぷら」「丸茄子海老みそやき」で飲み続け、「稲庭うどん」で〆る頃には店中がほろ酔いの笑顔だ。

 方や大将は30周年を迎える今月も浮かれることなく、寡黙で謙虚。

「時には勘違いしたり怠けたくなる気持ちも起きますが、気付いた時に修正することが大切。プロの世界に入った18歳の時の感動と緊張は今も忘れていません」

 カウンターや梁が飴色になっても、大将の心は今も純白なのだった。


©MEGUMI KOMATSU

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