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由庵 矢もり(月島)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年5月21日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月23日

東京都中央区月島3-9-7   ☎︎03-6225-0633   営業時間18:00〜22:00

定休日:日曜、祝日 予算:コース¥6,500〜 ※完全予約制 カード不可 

*2016年「週刊新潮」15号掲載


 月島の路地に佇む築70年を超える古民家は、カウンター10席のみの小さな蕎麦屋。三和土の沓脱石で靴を脱ぎ、扉を開けると、鰻の寝床のような空間が広がる。

 2年前にこの店を開いた矢守昭久氏(42)が蕎麦に目覚めたきっかけは、一風変わっている。

「実は20歳の時に心臓病を患い、両親が体にいいからと、しょっちゅう長野に蕎麦を食べに連れて行ってくれたんです。幸い大事には至らなかったのですが、

 自分でも食べ歩きをするようになり、遂には修業に入ってしまった」

 その経験からか、矢守氏の料理には、健康への気遣いが端々に垣間見える。

 メニューは6500円のおまかせコースのみで、先付の蕎麦味噌からデザートの蕎麦蒸し羊羹まで全11品を味わうと、1日に必要なポリフェノールを摂取できるという。

「コース全体で1人あたり250㌘の蕎麦を食べていることになるのですが、蕎麦100㌘に含まれるポリフェノールは赤ワイン1杯分で、成人の1日の必要量と同じ。鉄分も成人の1日に必要な量の3分の1を摂れるんですよ」

 もちろん、味への気遣いも忘れていない。蕎麦に関するあらゆる文献を読んだという矢守氏によれば、蕎麦は実を粒のまま食すのが世界的には主流。

 蕎麦味噌に続く2品目のの定番「蕎麦の実雑炊」は、実の粒粒の食感と出汁のやさしい味に、心が和む。

 小鉢4品を挟んで登場した「そばがき」も、ふわりとした滑らかな口当たりの中に細かな粒の食感があり、蕎麦自体の繊細な甘味が広がる逸品だった。

「そばがきには、香り高い蕎麦粉を粗めに挽いたものを混ぜ、粒の食感を出すようにしているんです」

 蕎麦には、つなぎの小麦粉を使わない「十割」や二割使う「二八」などの種類があるが、矢守氏の理想は「十割」でありながらも、「二八」のツルっとした食感を出すこと。そのためにこんな工夫を凝らしている。

「蕎麦の味の決め手は、8割が製粉。私は国産の蕎麦粉を自家製粉して手打ちしているのですが、同じ挽き方をしても、石臼によって粉の質感や香りが変わってくる。そこで、4台の石臼を使い分け、質感の異なる国産の蕎麦粉を4種混ぜています」

 うれしいことに、蕎麦は「サラダ」「かけ」「せいろ」の3変化で登場する。

 最初の「蕎麦サラダ」は水菜や大根、せり、鶏のささみなどをのせ、コース全体の栄養バランスを考えて胡麻ダレを絡める。タレによって蕎麦のツルリとした食感が強調される。それに対して「あさり出汁」でいただく「かけ」は、出汁に負けない蕎麦の香りが際立っていた。

 しかし、蕎麦の香りと甘味、喉越しが最も引き立っていたのは、最後の「せいろ」。まさに「十割」でありながら、「二八」の滑らかな食感が出ていた。

 完全予約制の10席のカウンターは、すでに矢守ファンの専売特許と化している。


©MEGUMI KOMATSU

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