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蕎ノ字(人形町)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年7月2日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月25日

東京都中央区日本橋人形町2-22-11 井上ビル1F  

☎03-5643-1566

営業時間11:45 ~13:30LO、17:30〜20:00LO  

定休日:月曜、第2・3日曜、年始

コース予算:夜¥10,000〜(税サ別)

*2017年2月16日発売「週刊新潮」8号掲載



静岡県産の素材やかえしを使う

天ぷらと蕎麦の専門店


 昨年10月末に静岡県島田市から東京進出。暖簾に、

「天ぷら食って蕎麦で〆る」

と染め抜いた通り、基本のおまかせコース(8900円、税別)は付き出し2品と天ぷら十一品、〆のそばという構成だ。

 店主の鈴木利幸氏(47)の実家は、島田の蕎麦屋。家業を継ぐつもりだった20代前半の頃、日本橋の名店「てんぷらみかわ」で衝撃を受け、天ぷらに目覚めたとか。

「それで祖父から“蕎麦屋の天ぷら”を教わり、のめり込むようになりまして。一方で『てんぷらみかわ』にも静岡から通い続け、勉強させていただきました。その後30歳で独立したのですが、“天ぷらそば発祥の地”である日本橋で店をやりたいという思いが募り、念願を叶えた次第です」

 店内は、清々しい白木のカウンターに8席のみ。コースの付き出し2品は蕎麦を使ったもので、和え物の小鉢は真っ白な蕎麦の実のさらりとした口当たりと、生海苔やなめこのつるりとした食感がさりげなく食欲をそそる一品。方や、一口サイズの「そばがき」は、なめらかな中にあるプチプチした舌触りが斬新だ。

「穀物のような食感を出すためにコーヒーミルを使い、蕎麦を超粗挽きにしているんです。この後の天ぷらは、壁に掛けてある木札の順番に揚げてまいります」

 最初の「車えび」2本は、芯をレアに仕上げた揚げ加減が見事で、なよやかな口当たりが独特。

「背に包丁を入れるのではなく、背骨を砕いています。こうすると食感が違います」

「海老の頭」は、カラリとした殻の香ばしさと、身の甘みが絶妙だ。次の「きす」までは江戸前だが、3種目の「太刀魚」以降、9種目の「穴子」までは静岡県産のネタだ。

「魚の仕入れは築地と静岡が半々で、野菜は静岡産が中心です。“江戸前の天ぷら”との違いを意識しています」

 たとえば太刀魚は焼津産。これを天ぷらにするだけでなく刺身でも出して食べ比べさせるのだが、刺身では炙った皮の脂の旨味が、天ぷらでは上品な白身の旨味が楽しめる。懐紙に包んで手渡される島田人参は芋のように甘く、人参の力強い香りが印象的。「本日の地魚」は御前崎産天然平目で、6日間ねかせた厚い身は旨味が濃厚だ。

 肉厚なシイタケ「玉取茸」は半分に切って2カン出されるが、片方は蕎麦屋の「かえし」を塗ったもの。そのまま食すと、醤油よりも柔らかな「かえし」の旨味に気付く。

「かえしは、実は天ぷらとの相性がいいんです」

 後半は、浜名湖の汽水域で1月から漁が始まる「舞阪海苔」や「牡蠣」「穴子」、「桜海老のかき揚げ」と、まさに天ぷら屋のようだが、「天ぷら屋のようになってきたのは東京へ出てきてから。島田ではもっと蕎麦屋寄りの店だったんです」

 自慢の〆の手打ち蕎麦は木県益子産の蕎麦を二八で打ったもので、「もり」か「かけ」の二択。喉越しのよいもり蕎麦の香りに、蕎麦屋の倅の矜持が光る。



©MEGUMI KOMATSU

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