虎白(神楽坂)
- 小松めぐみ
- 2018年5月13日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月25日
東京都新宿区神楽坂3-4 ☎03-5225-0807
営業時間17:30〜22:30LO 定休日:日・祝 コース¥15,000〜 要予約
*2016年「週刊新潮」7号掲載

「美味しい食材があれば、調味料はなくてもいい」
そんな名言を繰り出したのは、東京・神楽坂にある日本料理店「虎白」の小泉功二料理長(36)だ。
ミシュランガイド東京で7年連続3ツ星を獲得している「石かわ」の姉妹店として、2009年に開業した同店もまた、3ツ星店。伝統的な日本料理をベースとしつつも、食材の使い方やコースの構成に斬新さが光る、いわば「コンテンポラリー・ジャパニーズ」の店である。
「以前は他店との違いを出すために、お椀を出さないようにしたり、代わりにガラスの容器を使ったりしていましたが、今はお椀という定型の中で食材の組み合わせや味付けに工夫を凝らすことが楽しい。美味しいと思うものなら、海外の食材でも取り入れるのが、私のスタイルです」
早速、9品からなる1万5000円のコースを注文すると、旬の「海老芋の煮物」に続いて「岐阜産の真鴨の燻し揚げ」が登場した。
初っ端から揚げ物というのもさることながら、珍しいのはスパイスである。中華料理に使われる「八角」と、昆布のパウダーを混ぜた塩をつけて味わうのが、小泉流だという。
「鴨は笹の葉で燻した後、衣をつけて揚げています。天ぷらの薄い衣だと素材の水分が抜けてしまうため、コーンスターチを混ぜ、水分と旨みを閉じ込めているんですよ。八角を合わせたのは、コクのある食材との相性が良いため」
次の「おしのぎ」の後は、自慢のお椀。澄んだ出汁の中に鎮座する椀種は、松葉蟹と蟹ミソだけでつくられた真丈で、
「みりんも塩も醤油も使っていないんです」
と、言われて驚いたが、箸で割ると断面から蟹のエキスが染み出て、吸地に旨みが広がっていく。なるほど、確かに美味しい食材さえあれば、調味料は要らない。薄味だからこそ、蟹の淡い甘味が引き立つのだ。
続く8品目の「白子と聖護院蕪のすり流し」も、調味料不使用の一皿。最初は物足りなく感じるが、ひと口ごとに聖護院蕪の甘味と香りが染みわたり、食べ切る頃には舌に味が蓄積されて、ちょうどいいバランスになる。
「食材の香りと旨みと食感を大切にしながら、料理を食べ切ったときの感覚をイメージして、味付けのバランスを考えています」
後半は、醤油の代わりに柑橘の酸味がきいた出汁のジュレをかけた「お造り」や、黒トリュフを削ってかけた「焼魚」など、小泉料理長らしい品が続く。
黒トリュフはいかにもミシュランが好みそうだが、
「出汁や白味噌、醤油の香りと相性がよく、コースの全体に変化をつけるために使っているだけですよ」
と、小泉料理長。
その気取らない姿勢は、シンプルでいて芯の通った一つ一つの料理に通じるのであった。
©MEGUMI KOMATSU
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