西麻布 豪龍久保(西麻布)
- 小松めぐみ
- 2018年4月14日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月23日
東京都港区西麻布2-15-1 三澤ビルB1 ☎︎050-3188-0535
営業時間: 18:00~21:00LO
定休日:日曜、祝日
予算:¥16,200〜
http://www.goryu-kubo.com
*2015年「週刊新潮」31号掲載

ハモの骨切りに一家言ある「西麻布の理論派料理人」
北大路魯山人をして「煮ても焼いても、蒲鉾に摺り潰しても、間違いのないよい魚」(『春夏秋冬 料理王国』より)と言わしめたのは、夏が旬のハモ。もっとも、関西のご馳走だった50余年前当時と違い、流通が整った現在では、東京でも見事なハモに出会える。
その一軒が、東京・西麻布の「豪龍久保」。ご主人の久保豪氏(41)は千葉県出身で、料理の道に入ったのは26歳と遅めだが、修業先でハモの扱い方を学び、自らも独自に研究を続けてきた。いわく、
「1kgのハモには、約800本の骨があります。これを1本1本抜いてみると分かるのですが、ハモの骨は独特の角度でついている。この骨に対して直角に包丁を入れないと、とげとげした食感になってしまいます。ハモの骨は、細かく切ることも大事ですが、それよりも骨に包丁を入れる角度が大事。ちゃんと理屈があるんですよ」
これが、料理人の腕の見せ所とされている、ハモの「骨切り」である。身を腹側から開き、細かい切りこみを入れて小骨を切断するのだが、下手をすると身がつぶれ、味も食感も落ちてしまう。ゆえに「1寸(約3㎝)に26筋の切り込みを入れられたら板前として一人前」という“言い伝え”まであるほどだ。
その点、久保氏が8月中旬まで全コース(1万5000~3万円)で出している「牡丹ハモの椀」は、この店の夏の花形にふさわしい。
骨切りしたハモに葛粉をまぶして湯引きすると身が開き、牡丹の花に見えることから、「牡丹ハモ」と呼ばれるのだが、銀色の椀の吸地の中で輝く純白のハモは、まさに白い牡丹の花のよう。
なめらかな身に箸を入れればほろりと離れ、上品な旨みが現れる。もちろん、骨は全く気にならない。
「九州・天草産の活け〆のハモを骨切りし、1人前に15の切れ目を入れ、切れ目の一枚一枚を竹串でめくりながら葛粉をまぶしています。葛打ちする時は、切れ目が細か過ぎると身が破れやすいので、15筋がちょうどよい」
さすが、丁寧な仕込みこそが強みだと自負する、久保氏である。聞けば、葛粉自体もふるいにかけてきめ細かくしていると言うし、澄み切った味わいの出汁にも、こんな秘訣がある。
「本枯れ節と利尻昆布の一番出汁です。当店では鰹節4種と昆布3種を使って数種類の出汁をとり、料理に合わせて使い分けていますが、一番大事なのは水。東京の水は硬くて昆布出汁がひきにくいので、分子が細かい水素水を使っています。それで出汁が美味しくひけるのです」
この水素水が、コースの締めの土鍋炊き込みご飯でも、具材の旨味を引き出す。「ハモの尾の身の唐揚げと青山椒の土鍋炊き込みご飯」は、ハモの唐揚げのコクと旨味がご飯に染みて、箸が止まらない。
先人の言葉を辿る幸福に酔いしれた。
©MEGUMI KOMATSU
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