野田岩 麻布飯倉本店(赤羽橋)
- 小松めぐみ
- 2018年3月21日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月25日
東京都港区東麻布1-5-4
☎︎03-3583-7852
営業時間11:00~13:30、17:00~20:00(最終入店)
定休日:日曜(夏期休暇、7・8月の土用の丑の日は休業)
予算:鰻丼¥2,200、鰻重¥2,900 http://www.nodaiwa.co.jp/index2.html
*2015年「週刊新潮」3号掲載

その道56年の「名人」が焼く老舗の鰻
鰻は万葉の昔から夏痩せによいとされているが、実のところ天然鰻の身が肥えるのは、10月から12月。絶滅危惧種に指定され、漁獲規制が敷かれる現在、ごくわずかとなった天然鰻を出す店の中で、東京・麻布飯倉の「野田岩」は名の知れた老舗である。
「天然鰻は春から夏の間は川で過ごし、徐々に河口に下って、10月頃の時化に流されるようにして太平洋へ産卵に出ていくのですが、その季節によって身の質が変わるんです」
かくしゃくと語る5代目大将の金本兼次郎氏(87)は、若干30歳で店を継いで56年になる生き字引き。
「春はフワッと軽く、秋は重い。この時期のものは『下り鰻』と呼ばれ、肥って脂がのって美味しいので、昔の問屋さんは大量に仕入れて田んぼに放って囲ったものです。冬場になると、脂が一段とのって皮が厚くなり、香りもよくなることから、昔は『トルコの煙草と天然鰻は最高の香り』と言われていました。川に豊富な餌がなくなった今では、下り鰻を囲う業者もいなくなり、香りのよいものにも滅多になくなりましたがね」
野田岩では5月から12月まで天然モノを扱っているが、昨年12月に入荷したのは8日間のみ。取材当日の夜も、あいにく品切れだった。もっとも、そこは野田岩。養殖ものも遜色ない。その美点を聞くと、
「私が店を継いだ当初こそ、天然ものだけを扱っていましたが、40年前から養殖ものも出すようになりました。
天然鰻が川の中で病気にかかってしまい、出回らなくなってきたからです。その点、養殖モノは季節に関係なく脂がのっています」
注文したのは、お通し、志ら焼(白焼き)、鰻重に肝吸と香の物が付く「鰻三楽コース」(6400円)。待って当然と覚悟していたが、意外なことに志ら焼は注文後10分で出てきた。
「鰻は生きたまま裂いて串を打った後、素焼きし、蒸し、タレをつけて焼き上げるのに1時間以上かかります。ですから、ある程度下準備をしているんです」
銅鈷(保温できる金属製の器)の中の志ら焼はほんのり黄色味がかって、ふわりと柔らか。鰻重の蒲焼きは程よく甘辛いタレが染みて、とろけるような柔らかさだった。
「蒸す時は『豆腐より柔らかく』が身上ですが、そもそも最近の養殖鰻は、身がカステラみたいにフワフワです。それを重宝がる職人もいるけれど、こういう鰻は焦げやすい。鰻は焦がしちゃいけませんから、焼く時は、その日の天候や鰻の状態に合わせて団扇で風を送り、火加減を調整する。4代目の父は火鉢使いの名人でしたが、私は迷うことの名人ですね。昔の鰻を知っているから、ああいう鰻を焼きたいなあ、と試行錯誤してばかりですよ」
鰻は「裂くのに3年、串打ちに3年、焼くのは一生」といわれる。なるほど、大将は男子畢生のことと受け入れているわけだ。
土用の丑の日は冬にもあり、今年は1月25日。鰻は夏と決めてかからず、名人芸を満喫されたし。

©MEGUMI KOMATSU
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