鉄板焼 いわ倉(神楽坂)
- 小松めぐみ
- 2018年7月3日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月22日
東京都新宿区岩戸町1 M’s 神楽坂3F
☎03-5946-8798
営業時間 18:00〜深夜(コース23:00LO)
定休日:日曜
コース予算:夜¥10,000〜(税サ別)
https://www.teppanyaki-iwakura.com
*2017年2月23日発売「週刊新潮」10号掲載

“鉄板割烹”の看板料理は
大穴子と和牛の鉄板焼と蕨餅
飲食店がひしめく雑居ビルの中に、2016年10月にひっそりとオープン。料理長の森藤崇氏(30)は都内の超人気店などで10年近く修業を積んだ日本料理の若手ホープだが、ここで究めんとするのは「鉄板割烹」という新ジャンルだ。
「学生時代に広島焼屋でアルバイトした時に気づいたのですが、鉄板という調理器具は食材の脂や旨味を逃がさず、閉じ込めることができます。その良さを割烹に生かしたいと思いまして」
入口のガラス扉を開けると、細長い通路沿いには半個室が設けられ、その先は照明を落としたテーブル席。数段下のカウンター席は、鉄板を挟んで森藤氏との会話も楽しめる特等席だ。
約11品から成る1万円(税サ別)のコースはほぼ日替わりで、1品目は「春菊のお浸しと柚子、雲丹」。滋味深い正統派の料理を味わっていると、森藤氏は目の前の鉄板に鍋を乗せて温め、隣のまな板で寒平目の刺身を引き始める。
2品目は、その鍋から取り出した茹がきたての「鹿児島産の早堀り筍」。新鮮な筍ならではのトウモロコシを思わせる甘みを堪能すると、続いて寒平目が握り寿司となって登場し、縁側のお造りも添えられる。
「季節の寿司は定番の品で、本日の寒平目の寿司は煮切り醤油を塗ったものと、大葉と梅をのせたものです」
と説明すると、森藤氏は再び鉄板前へ戻って長葱を焼く。これがスッポンスープと共にお椀に注がれ、4品目となるのだが、味わいは想像以上にパンチのある濃い口で甘みもたっぷり。
「甘みは葱と酒によるものです。冬の葱は鉄板でじっくり焼くと甘みが出るんですよ。スープはスッポンをたっぷり使って、濃くひいています」
一方、鉄板にはワカサギや豚の西京漬、万願寺唐辛子などが一斉に並び、焼けた順に皿に盛り付けられる。そこに数種の酒肴を足したものが八寸だ。
「黒っぽいものは“ゆべし”といい、柚子と味噌などの調味料を発酵させた郷土料理です。福島で穴子料理店を営む父親から教わったものです」
濃厚な味噌に柚子の香りと苦味が溶け込んだ珍味も、一口サイズの鉄板焼も、アテにぴったり。そしていよいよ6品目からは、雲子、大穴子、鹿、黒毛和牛などの鉄板焼だ。一見「牡丹ハモ」のような大穴子の白焼きには、炙った皮の脂の旨味が閉じ込められている。
「大穴子は約1㍍もの大きさがあり、骨切りすると牡丹ハモのように開くんです。穴子の産地は全国にありますが、親父の店で食べた白焼きの美味しさを再現すべく、私は三陸の漁師の大穴子を使っています。肉は品川の問屋から直接仕入れており、本日は仙台牛です」
仙台牛のカタサンカクは噛む程に味が出る赤身の部位で、約80㌘。さらに帆立貝の酒蒸しをガーリックオイルで炒め、芹を加えた「ガーリックライス」まで進めば満腹だが、〆の「わらび餅」は目の前の鍋で水と本蕨粉を練って作る本格派。割烹ならではの上品な甘味は、別腹だ。

©MEGUMI KOMATSU
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