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銀座一期(銀座)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年6月14日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月18日

東京都中央区銀座8 7-7 JUNO銀座誠和ビル3F ☎03-3573-2015 

営業時間 17:30〜21:00LO    定休日:日・祝日 コース予算:¥15,000〜 

http://www.ginza-ichigo.com   

*2016年「週刊新潮」43号掲載



8種の合わせ出汁で作るおでんと

京料理の懐石を茶室のような空間で


 本聚落の壁と煤竹の網代天井、紀州桧のカウンターを配した店内は、茶室のような静謐な趣。3種類の懐石コースは京料理がベースで、「おでん」が主役だ。 

 おでんの前には、10月は丹波の松茸や甘鯛などの旬の食材を生かした品々が登場し、1万5000円(税抜)のコースの場合、お椀は「甘鯛の蓮蒸し」。蓋を取ると、「かぶら蒸し」ならぬ「蓮蒸し」の椀種が現れ、澄んだ出汁の香りを嗅げば、おでんへの期待が高まる。

「蓮蒸しとは、京料理のかぶら蒸しのように、蓮根をすりおろして蒸した料理です。蓮根が最もおいしい10月の今だけお作りしているんですよ。お出汁の昆布は北海道産の最高級の真昆布、この鰹節は鹿児島県枕崎産の一本釣りです」

 と言って料理人の澤田秀司氏(43)が見せてくれた鰹節は、削られた断面が濃いルビー色に光っている。「一本釣りの鰹は、網で獲った鰹と違って魚同士がぶつかって身が傷んだり、ストレスで酸味が生じることがないため、雑味がありません。この鰹節を、お客様が来店してから削っています。鰹節は削った瞬間から香りも風味も減り続けていきますので」

 続いて華やかな赤絵の皿で登場したのは、利尻産の平目の薄造り。ポン酢に添えられた自家製のあん肝は、ふんわりと柔らかく、平目にのせてポン酢を付けて味わえば、日本酒が進むこと請け合いだ。食べ終えると皿の中央に「福」という字が現れ、何とも晴れやか。

「こちらの器は永楽善五郎作です。当店はオーナーが器や設えを重視しておりまして、通常ならば実用には使わないような器も使っています。器が好きなお客様には、魯山人の盃をお出しすることもあります」

 よく見れば、料理長がカウンターの中でおでんの出汁の容器として使っているのも、茶道の赤楽の水指。贅沢さに感嘆しているうちに、いよいよおでんの番となる。おでんは約18品のメニューの中から好みのものを5品選ぶ仕組みだ。

 注文したのは、温かいのに中が半熟の名物「一期玉子」と、とろけるような口当たりの「棹前昆布」、そして限りなく半生に近い柔らかさの「鶏つくね」「蓮根餅」「春菊」。この5品が2回に分けられ、まずは前者4品の盛り合わせが登場した。

「一期玉子」は出汁が染みて色づいた白身も味わい深く、「蓮根餅」は揚げ餅のようなボリューム感。出汁を飲めば、その旨味が五臓六腑に染みわたる。

「おでんの出汁は、お椀とは異なり、瀬戸内の伊吹いりこを中心とし、鰹と昆布の出汁、鶏ガラスープ、牛すじスープ、野菜出汁など、計8種のスープを合わせています」

 道理で旨みに深さがあるわけだ。一方、2皿目の「春菊」の出汁には爽やかな酸味があり、さっぱりとする。

「おでんは味の近いタネ同士を盛り合わせ、皿ごとに仕上げの味の調え方を変えています。春菊には柚子の搾り汁を加えています」。

 赤提灯を連想させるおでんがここまで洗練されるとは、料理の腕に驚くばかり。


©MEGUMI KOMATSU

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