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銀座吉本(銀座)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年3月13日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月25日

東京都中央区銀座7-2-8高谷銀座ビル4F

☎︎03-6280-6420

営業時間17:00~22:30LO

定休日:日曜、祝日 

https://www.unipulse.tokyo/yoshimoto/

*2014年「週刊新潮」43号掲載


「吉兆」出身料理長による

格式ばらない旬菜饗宴


 場所は東京・銀座、数寄屋通りのビル4階。エレベーターの扉が開くと、堂々とした一枚板の看板が目に入る。格子戸を開けると、広々としたL字型カウンター奥では、作務衣姿の料理長が貫禄を放っていた。

 懐石の名店「東京吉兆」で修業を積んだ齋藤昌彦氏である。

「吉兆では上司に恵まれまして、5年目くらいから板場に立たせてもらいました。私は可愛がってもらったほうで、普通は10年かかって覚える仕事を5年で教わりました」

 と朴訥と語る斎藤氏。料理人の世界では10年がひと区切り。9年務めた「東京吉兆」を出た後は、広尾の日本料理店(現在閉店)で料理長を務め、この道ひと筋でやってきたそうだ。

 屋号の「吉本」は、オーナー会社の精密機器メーカーの社長の名字である。食通の吉本社長が、かつて齋藤氏が料理長を務めていた店で齋藤氏に出会い、『銀座吉本』を開業する際に料理長に招いた。2013年12月のことだ。

 店内には前述の通りカウンターとテーブル、そして個室が備えられる。格式ばっておらず、親しみやすい雰囲気だ。

 料理は「福」8640円(税込、以下同)、「楽」1万800円、そして「吉」1万2960円の3種類。今回は、メインが和牛で全9品の「吉」を選んだ。   

 先付は毛蟹に蟹味噌、わわな(小さな白菜)、そしてゼリー状の海苔わさびを和えたもの。蟹の甘味に、冬の足音を聞く喜びがある。

 秋鯖棒寿司やふぐの唐揚げなどを盛り込んだ八寸は華やかで、それでいてジンバソウ(海藻)の素揚げのような珍しい美味に出合えるのもうれしい。

 お椀のだし汁の繊細な香りと、椀だねの牡蠣と帆立のしんじょのまろやかな旨味とのバランス。それらは、茶懐石の流れを汲む吉兆のDNAを感じさせるものだ。

 このことを料理長に伝えると、微笑みながらゆっくりと言葉を選んだ。

「長く修業した先で学んだことは、自分の血みたいなものになっていますね」

 一転してお造りは、斎藤氏が毎日築地で厳選する4種類を、直径30㌢ほどの大皿に盛り合わせる。なかなか豪快である。

「そうは言っても、ここは料亭ではありませんから、形にとらわれないで楽しんでもらいたいと思っています」

 この日は、北海道・増毛の海老子をのせた甘海老、青森・三厩(みんまや)の本マグロ、兵庫・明石の活け締めの鯛、山口・下関のフグの炙りが並んだ。日本の旬を北から南へ堪能すると、豊富に用意された日本酒がより一層すすむ。

 そのうえ、料理長は酒器の蒐集家でもあり、器でも楽しませてくれる。酒器は客が自分好みのものを選ぶ趣向だ。

<料理を心底から楽しむ人は、まず第一に、料理の風情に重きを置き、環境を楽しみ、大切にいたします>

 とは、北大路魯山人の言葉。「銀座吉本」は、そのことを思い出させてくれる一店だった。


©MEGUMI KOMATSU

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