随園別館 新宿本店(新宿御苑前)
- 小松めぐみ
- 2018年8月1日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月22日
東京都新宿区新宿2-7-4
☎03-3351-3511
営業時間 月・水・木11:00〜15:00、17:00〜23:00 金・土・日・祝日11:00〜23:00
定休日:火曜日(12月・1月は無休)
予算:昼¥1,000、夜¥4,000(税込)
http://www.zuienbekkan.co.jp
*2017年12月20日発売「週刊新潮」50号(新年合併号)掲載

本店限定の満州風寄せ鍋を囲み
水餃子で〆る中華の宴
昭和38年創業の「随園別館」は、ラストエンペラーの親族である愛新覚羅鴻釣(あいしんかくらこうきん)が看板を揮毫した、歴史ある中華料理店。創業者は山東省青島出身で、現在都内に計5店舗を展開する張本君成(はりもときみなり)社長は2代目だ。張本社長いわく、
「父が国共内戦時に蒋介石と共に台湾へ逃げ、その後台湾の情勢が不安定になったために日本に来て創業しました。店名の『随園』は清朝の美食家・詩人である袁牧(えんばい)の雅号から取ったもの。『別館』と付けたのは画数を良くするためです」
新宿本店は全150席の大型店で、メニューに並ぶ料理は170種類以上。北京料理がベースだが、「麻婆豆腐」や「青椒肉絲」など、日本人好みの味も網羅されている。名物は1日1000個売れるという「水餃子」(10個800円/税込、以下同)と「合菜戴帽(がっさいたいぼう)」(1200円)。本店限定の11〜3月のおすすめ「酸菜火鍋」(4000円)も楽しむなら、3〜4人で訪れるのがベストだろう。
鍋の前に楽しみたい「合菜戴帽」は、野菜の五目炒めの上に、大きな卵焼きを帽子のようにのせたもの。それを別添えの細切りの葱と甜麺醤と共に薄餅にのせ、 包んで楽しむ一品だ。まるで北京ダックのようだが、
「中国北部には前日のおかずの残り物を薄餅で巻いて食べる習慣がありまして、父がそれをヒントにして考案したのがこの料理です」
メインの「酸菜火鍋」は、中央が煙突のように突き出たドーナツ状の鍋で楽しむ旧満州風の寄せ鍋。白菜を米の研ぎ汁に漬けて作る漬け物「酸菜」の酸味とシャキシャキした食感が特徴だ。
「中国東北部の冬は寒くて野菜が育たないので、保存食としてこの漬け物を作るのです。鍋に必須の具材は春雨、豚バラ肉、木綿豆腐ですが、当店は日本人向けに牡蠣、蟹、イカなどの海鮮も具材とします。紅腐乳のタレでお楽しみ下さい」
まず漬け物と春雨をタレに付けて食せば、漬け物の酸味とタレの塩分、旨みが混ざって、素朴な味わい。その味が通奏低音のように続きつつ、具材を食す度に新たな味が加わり、次第にクセになってゆく。
〆の「水餃子」は、もっちりした皮で豚肉主体の肉餡を包んだもの。皮は真ん中を厚めに打ち、自家製の山椒水を加えた湯で茹でるのが美味しさの秘訣だとか。
「具が接する部分は伸びて薄くなるため、厚めに打っておくと最終的に均一に仕上がるのです。山椒水を加えるのは仄かな風味でさっぱりさせるため。茹でる時は餃子同士がぶつかって皮が破けないように、一定の方向に湯を“押し”ます。昔の山東省の料理人達は文化大革命の時に台湾や香港へ行ってしまったので、今は青島にもこういう伝統的な水餃子を出す店はないようです」
50年以上前の創業時は、戦前に青島に住んでいた日本人が、本場の味を懐かしんで集まったとか。古き良き時代の味が受け継がれる、稀有な中華料理店である。
©MEGUMI KOMATSU
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