香味屋(三ノ輪)
- 小松めぐみ
- 2018年6月9日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年8月25日
東京都台東区根岸3-18-18 ☎03-3873-2116
営業時間11:30〜22:00(20:30LO) 定休日:水曜、年末年始休
平均予算:ランチ¥3,000、ディナー¥5,000 http://www.kami-ya.co.jp/honten/
*2016年「週刊新潮」34号掲載

薄めの衣でふっくら揚げるメンチカツ
東京・根岸が花街として賑わった大正14年創業の「香味屋(かみや)」は、メンチカツが看板の洋食店。4代目の宮臺香惠氏(48)いわく、現在の味が完成したのは3代目の頃だったという。
「曾祖父の宮臺喜作が開業した当初は輸入雑貨店だったのですが、芸者衆からの要望で軽食を出すようになり、本格的に洋食屋となったのは戦後のこと。その後、戦時下に船上で料理人をし、下船後に祖母と一緒になった丸山政五郎(2代目)が厨房に入り、花柳界への出前の裏メニューとしてメンチカツを始めたそうです。今の形になったのは父が3代目を継いだ昭和43年頃。父はパレスホテルでの修業経験を生かしてレシピの改良を重ね、幼かった私は味見係をした記憶があります」
先代から受け継がれた「メンチカツ」(小・1150円〜)にナイフを入れれば、湯気と共に肉汁が溢れ出し、芳醇な香りが食欲をそそる。薄めの衣はさっくり香ばしく、メンチはふっくらとジューシー。味わえば、自然に微笑みが浮かぶ。
「手抜きをしないで真っ当に作るだけなんです」
と、宮臺氏は謙遜するが、その作り方は極めて丁寧。料理長の小田倉光夫氏(64)によると、挽肉は牛肉と豚肉を6:4の割合で使用し、2度挽きしているという。
「それに食パンの白い部分だけで作ったパン粉をまぶし、旨味を引き出すために冷蔵庫で4時間ねかせ、良質なラードで揚げています」
何もつけずにメンチの旨味を楽しむのもよいが、皿に敷かれたドゥミグラスソースをつければ、より濃厚で奥深い味わいに。やはりドゥミグラスソースは、洋食の醍醐味だ。
「ドゥミグラスソースは、様々なメニューに欠かせない存在です。まずはベースのフォン(ダシ)を作ることから始めるますが、何よりも大切なのはフォンの素材の肉質。これが美味しさの決め手となるので、素材選びは妥協しません。そして鍋にフォンと赤ワイン、牛バラ肉、炒めた野菜を入れて、半分(ドゥミ)になるまで4時間ほど煮詰め、旨味成分を凝縮させます。当店ではステーキの焼き汁も継ぎ足しながら作っているんですよ」
そのソースを堪能すべく、「タンシチュー」(3500円)を注文すると、皿に盛られた牛タンは厚み3㌢、長さ15㌢程と、目をみはる大きさ。
「ウチで使うタンは、柔らかな根本の部位だけ。タン1本から3〜4人前しか取らないんですよ」
だからこその大きさなのだ。それを切ってドゥミグラスソースを絡めて口に運べば、まさにとろけるような舌触り。まろやかなタンの旨味とソースのコクが相まって、至福である。さらに店主おすすめの南仏ワインを飲めば、コクのあるスパイシーな味わいがドゥミグラスソースと響き合う。
「お料理との相性を楽しんでいただけるよう、飲物のリストを一新したばかりです。日本酒がお好きでしたら、黒龍も是非」
試してみれば、福井県の銘酒と洋食の相性もなかなか。つい杯が進むのだった。
©MEGUMI KOMATSU
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