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鮨 ひとは(六本木)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年4月16日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年8月23日

東京都港区六本木7-12-25 グリーンヴェゼル2F   ☎︎03-6447-2363

営業時間 18:00~23:00(要相談) 

定休日:土曜、日曜、祝日

平均予算:¥23,000    

*2015年「週刊新潮」33号掲載


飽くなき「シャリ」追求を続ける

六本木の寿司職人


 語源とされる「仏舎利」のごとく崇めているわけではあるまいが、腕のいい寿司職人は揃って「シャリが命」と言う。白飯に酢や塩を混ぜるだけなのに、店によって千差万別。

 東京・六本木の路地裏に佇む「ひとは」の大将・山崎信一氏(41)もまた、シャリを追求する職人の一人である。

「私は18歳で寿司の世界に入り、5人の親方の元で修行を積んだのですが、その過程で学んだのは、寿司の8割はシャリで決まるということ。35歳でこの店を開いた際は、シャリに適した米作りを栃木県の農家に依頼したほどです」

 開業当初は、この栃木県産の米を昆布出汁で炊き、米酢などの3種類の白酢で味付けをした「白シャリ」だけを使っていたが、3年程前から新たに「赤シャリ」も導入したという。

「近年の江戸前寿司の流行として赤シャリに注目していたところ、ちょうど良い赤酢を見つけたんです。どこの品かは秘密ですが、長期熟成の酒粕を原料としたもので、とてもコクがあった。そこで、白シャリと赤シャリの両方に合うような米に変えようと、これまでのあっさりした栃木県産のものに、より甘味のある山形県産のものをブレンドするようになりました」

 さて、2種類のシャリを如何に使い分けるのか。

 この店にはメニューはなく、席に着くと、約7品のつまみと10カン前後の握りと巻物から成る「おまかせコース」(平均2万3000円)が始まる。

 この日は「蒸しアワビ」や「煮ダコ」などのつまみをいただいた後で、大将が握りを出してくれた。

 最初の3カンは「赤シャリ」で、脂がのったキンキとサンマはコクのあるシャリと抜群の相性。マグロの赤身はシャリによって酸味と甘味が引き立ち、目が覚めるような味わいだ。

 続く3カンは、「白シャリ」で小肌、子持ちシャコ、トロが握られた。「赤シャリ」はネタとの相乗効果で旨味をふくらませるが、「白シャリ」は三歩下がってネタを引き立てる。

「白シャリは塩が強く、赤シャリは塩が薄くて酢が強いのです」

 と教わると、小肌のほんのりした苦味や、子持ちシャコの甘味は、酢ではなく塩によって引き立てられていたのだと気付く。

「同じ魚介でも、脂のノリ方やお客様の好みなどに応じて合わせるシャリを変えますし、シャリ自体も季節や気候によって酢の量を調節する。だから“答え”はありません。“これが答え”だと思ってしまったら、そこで終わりですからね」

 シャリの奥深さに圧倒されていたら、あっと驚くような名物が登場した。

 ウニ。といっても、軍艦巻きではない。ウニをつぶしながら、その甘味と旨味が「赤シャリ」のコクと渾然一体となるよう混ぜた「ウニごはん」である。

 大将曰く、

「ミョウバンがあまり使われていないウニは、つぶした方が旨味が出るんですよ。秋には、この上にイクラを乗せてお出しします」

 何だか、大将のシャリが本物の仏舎利のように崇高に見えてきた……。


©MEGUMI KOMATSU

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