鮨 二斬(恵比寿)
- 小松めぐみ
- 2018年5月19日
- 読了時間: 3分
東京都渋谷区恵比寿南2-29-5 ブルーローズガーデン1F ☎︎03-5708-5204
営業時間12:00〜14:00、18:00〜22:00 定休日:月曜
予算:昼¥2,800〜、夜¥10,000〜 http://www.sushi-nigiri.com
*2016年「週刊新潮」13号掲載

2013年に東京・恵比寿の閑静な一角にオープンしたこの鮨店は、「二斬」と書いて「にぎり」と読む。斬れ味の見事なネタと、粒立つシャリ。この二つが絶妙な力加減で握られ、馴染み合うのだ。
「独立するにあたって、常連のお客様だった書家の石川九楊先生に名付けていただいたんです」
そう語るのは、店主の菊池知巳氏(51)。都内の有名ホテルで修業した料理人だ。店内はクラシック音楽のBGMが流れ、上品な雰囲気が漂う。
「33年間の修業を通して技を磨いて参りましたが、たとえ同じネタやシャリを使っても、握り手が変われば全く違うものになってしまうのが、握りずし。口に入れた瞬間にごはんがほぐれ、魚と一体化するのが私の理想です。そんな究極の握りずしを沢山の方に楽しんで頂きたくて、この店を始めました」
おまかせコースは、約12カンで1万円から。1万2千円のコースを注文すると、まず、9種のおつまみが登場した。
定番の甘鯛の昆布締めは、甘鯛と昆布の旨みの相乗効果で、想像を超える濃厚な味わい。旬の蛤の茶碗蒸しやミル貝、青柳などを楽しむと、握りずしの段となる。
最初は名物のヤリイカだ。軽くふった塩によって甘味が引き出され、ねっとりした身は、噛む度にシャリの粒と混ざり合っていく。
「ヤリイカの身の厚さは3〜5㍉ほどですが、3枚におろすように包丁を入れ、さらに表面の繊維に細かな切り目を入れているんです」
なるほど、その無数の包丁目によって身が米粒大になり、シャリと絡むのだ。
次のシマエビもとろけるようにねっとりしてシャリと一体化していくが、ヤリイカの技が「包丁」だったのに対し、シマエビは「熟成」だという。
「シマエビは1日ねかせたぐらいが、甘味が出てちょうどいい。活シマエビなんて、生で食べても美味しくないんですよ。ブリッとした活きの良さが好まれた時代もありますが、今は熟成させた柔らかな食感が人気の時代。スシにも流行がありますね」
ということで、マグロも少しねかせているため、やはり口当たりは柔らかい。その身でシャリを包むように握った1カンは、口に入れるとマグロの手毬寿司のような贅沢な食感である。
さらにウニも、口に入れると、みるみるうちにシャリの粒と混ざり合う。菊池氏いわく、「塩水ウニ」を使っているのだとか。
「ウニは通常、身が溶けるのを防ぐための凝固剤としてミョウバンを使いますが、塩水ウニは海水と同じ濃度の塩水で保存したもの。だから柔らかく、シャリと混ざり合うのです。シャリは空気をはらませるようににぎるので、ウニが一体化するんですよ」
口中での変化まで計算された究極の握りは、斬新であった。
©MEGUMI KOMATSU
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