KOTARO Hasegawa DOWN TOWN CUISINE(新御徒町)
- 小松めぐみ
- 2019年8月12日
- 読了時間: 3分
東京都台東区4-2-11
☎︎03-5826-8663 営業時間:18:00~20:30(L.O.)
定休日:日曜、祝日、その他不定休あり コース予算:¥5,000~(税別)
*2019年7月25日発売「週刊新潮」29号掲載

下町の商店街にオープンした
凄腕シェフの小体なフレンチ
「料理人よ故郷に帰れ」
20世紀半ばにフランス料理の神様と呼ばれた巨匠フェルナン・ポワンのこの名言は、後世の料理人に影響を与えた。昨年12月、地元・新御徒町の商店街に店を開いた長谷川幸太郎氏(46)も、そのひとり。名店「ひらまつ」グループの各店で料理長を務め、フランスの権威ある料理コンクールで何度も上位入賞を果たした実力者だ。シェフいわく、
「目標としているのは“メシを食う”文化の下町に、“ゆっくり食事を楽しむ文化”を広めてゆくこと」
それにはまず地元に受け入れてもらわねばと、格式ばった印象を持たれがちな「フランス料理」を謳うことを避け、代わりに「ダウンタウンキュイジーヌ」という言葉を作ったという。
4卓のテーブルからは敢えてクロスを排除。無垢材の素朴なテーブルには、ナイフやフォークと共に、煤竹の箸や切子のグラスも置かれている。
「以前、国際コンクールに出て以来、日本の文化や食材を生かすことを心がけておりまして。食材はほとんど国産のものを産地から取り寄せて使っています」
壁に飾られたモノクロ写真の被写体はみな、食材の生産者なのだとか。
コースは6品5000円(税別、以下同)から3種類。一番人気の1万円のコースは、アミューズ2品、前菜3品、メインの魚、肉、デザートという8品構成だ。
夏のコースの1品目は、藍色の切子小鉢に有機ビーツの紅赤色が映える、目にも舌にも涼やかな冷製ポタージュ。日本の器にフランス料理を盛るスタイルは以降も同様で、2品目は江戸末期の染付の皿で登場。白い煙が充満するガラスの蓋を開けると、徐々に煙が引いて姿を現すのは、「桜鱒のスモーク」だ。旬の桜鱒の豊かな旨みは、キャビアの塩気とクリームのコク、シャインマスカットの甘酸っぱい香りで絶妙に引き立てられている。続いて古伊万里の皿で出される三陸の帆立は、炭火で軽く炙ったもの。程よい酸味のある白ワインソースと抜群の相性だ。
「ソースはキウイを使ったものです。私が料理によくフルーツを使うのは、以前修業した南仏の星付きレストラン『ル・ジャルダン・デ・サンス』の影響が大きいですね」
とシェフ。越前漆器のお椀に盛られた4品目の主役は、柔らかなリードヴォー(仔牛の胸腺)のムニエルと和歌山産足赤エビ。食材のもつ上品な旨みに、エビの頭でとった香り高いビスクソースが寄り添う逸品だ。
「リードヴォーと海老は、フランス料理の古典的な組み合わせなんです」
とシェフに教われば、ほのかな親しみも湧いてくる。
メインの甘鯛や近江牛は備長で丁寧に焼き上げ、それぞれにぴったりのソースを添えたもの。味覚と視覚と知的好奇心も満たす豊かな時間を味わえば、2カ月先まで満席というのも納得だ。
©MEGUMI KOMATSU
次回は8月8日発売「週刊新潮」31号にて、「OPUS」の記事をお届けします
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