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てのしま(青山一丁目)

  • 執筆者の写真: 小松めぐみ
    小松めぐみ
  • 2018年8月12日
  • 読了時間: 3分

更新日:2018年9月1日

東京都港区南青山1-3-21 1-55ビル2F  ☎03-6316-2150

営業時間: 18:00〜23:00LO   ※21:00以降アラカルト可

定休日:日曜日(その他月2回不定休) コース予算:¥10,000(税別)

https://www.tenoshima.com 

*2018年8月2日発売「週刊新潮」30号掲載 

京料理の技と型をふまえた“現代の日本料理”9品


「若い人が記念日に外食しようとする時、日本料理は母国の料理なのに候補に挙がりにくい。それは従来の懐石料理の、緊張を強いるような印象のためだと思います。そこで、もっとざっくばらんに、現代的な日本料理を出したいと思い、3月にこの店を開業しました」

 パリッとした白衣姿で語る店主の林亮平氏(42)は、名店「菊乃井」で料理長まで務めた凄腕。店名の「てのしま」は林氏の故郷、香川県・手島に因んでおり、ここでは香川県を含む全国の地方の料理を、京都の技と型で生かしていくという。

 おまかせコースは9品構成(1万円、税別)で、夏のある日の前菜は「賀茂茄子と湯葉の冷やし炊き合わせ」「鮎胡瓜たでおろし」。どちらも旬の食材を生かしたオーソドックスな趣だが、鮎の上に掛けられた「胡瓜たでおろし」は、隠し味に油を用いて鮎の旨味を引き立てる、斬新な名脇役だ。



「日本料理は、外国の料理と比較すると旨味のコントロールに圧倒的に優れている一方、油脂が足りません。日本料理は本来、油脂を使わないものですが、私は油脂を加えれば世界最強の料理になると思います」

 コースにはこうした創作の要素がちりばめられているが、3品目の煮物椀は必ず懐石仕立ての正統派。たとえば「鱧とじゅんさい冬瓜の煮物椀」は、牡丹鱧の白さと冬瓜や青柚子の緑が目に涼やかで、一番出汁に鱧の出汁を加えた吸地は凛とした旨味に満ちている。

 4品目の金目鯛とカレイのお造りも正統派だが、あしらいはベビーリーフと現代的。次の魚料理はイタリア料理の「アクアパッツァ」を思わせる「鰆の炭火焼トマトあさりあん」、肉料理は「牛タンカツ」と、コース中盤には洋の要素も現れ、自由な感覚が食べ手の気分を緩ませる。

「“お造りのあしらいは口の中をさっぱりさせ、解毒作用があるもの”など、本質的なことは守りながらアレンジしています。私は、日本料理を日本料理足らしめる要素とは、香りの余韻と、食後の軽やかさだと思っています。そのためカツの牛タンは4時間かけて炊き、油分を抜いています。一見タルタルソースのような黄味酢にも、油を一切使っていないんですよ」

 季節の稲荷寿司など3種を盛り合わせた「てのしま寿司」を挟んで登場する〆は、小豆島の素麺を使った定番「いりこだしのにゅうめん」。瀬戸内名産のいりこは、林氏の故郷の象徴である。

「鰹と昆布の出汁はフォーマルな“ハレ”の出汁ですが、いりこ出汁は“ケ”の出汁。“ケ”の料理をいかに洗練させるかというのも、重きを置いている要素です」

 コンクリートの床に無垢材のカウンターとテーブルが並ぶ店内は、夜が更けるにつれて陽気なざわめきに包まれる。「ハレ」と「ケ」が入り混じった独特の空気も、ざっくばらんで現代的。


©MEGUMI KOMATSU



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